研究課題
進行性難治性の肺疾患である特発性肺線維症において、致死性合併症である急性増悪の発症誘因として、線維化肺における病的組織微小環境であるミトコンドリアDNAをはじめとするダメージ関連分子(DAMP)の増加が想定されるとの仮説に基づき、「肺線維症急性増悪における肺内ミトコンドリアDAMP増加と自然免疫経路の関与の解明」を目的として実験を進めている。R5年度は下記の研究項目に取り組んだ。1)昨年度までに確立したデジタルPCRによるmtDNA絶対量測定系をもちいたヒトIPF由来の血清および肺胞洗浄液(BALF)におけるmtDNAおよびゲノムDNAのコピー数と臨床情報との対比を行った。BALF中のmtDNA上昇はIPF患者の急性増悪後の予後と有意な相関を示し、早期死亡の予測因子となることが分かった。一方、BALF中のゲノム由来DNA濃度や血清中のmtDNA濃度には予後予測能は認められなかった。肺胞中で増加するDAMPであるmtDNAはIPF病態悪化への寄与が示唆された。2)マウス肺線維症モデルにおけるマクロファージ活性化の解析を進めている。ブレオマイシン誘導肺線維症モデルマウスの肺組織およびマクロファージにおいてSTING発現上昇を認めたことより、肺内遊離mtDNAがマクロファージのSTING経路を介して肺炎症を惹起するとの仮説に基づきmtDNAによるマクロファージの異常活性化の有無を骨髄由来マクロファージを用いて検討した。STING経路を介したmtDNAの炎症はmtDNAの酸化に一部依存していることが分かった。3)マクロファージにおけるmtDNAの生体肺における催炎症性の検討を行った。気管内投与されたmtDNAは一過性の肺炎症を起こすことが分かった。更にその程度はDNAの酸化傷害に大きく左右されることが示唆されている。現在詳細にマウス表現型の解析を行っている。
3: やや遅れている
mtDNAの肺傷害における貢献に、事前には想定していなかった酸化傷害の程度が大きくかかわっていることが解析を進める中で分かってきた。今年度から、酸化ストレスの程度の差が肺胞マクロファージや気管内投与による肺傷害モデルにどの程度影響を与えるかを追加して検討しているため、当初の計画を伸ばして詳細に検討を進めている。またこの過程STING経路に関連する複数のシグナル経路の関与が報告された。これらの新規知見についても併せて解析を進めており、興味深い発見に繋がっている。
次年度を最終年度として、mtDNAとその酸化傷害の生態炎症における関りとそのメカニズム、そしてIPF急性増悪の病態形成における寄与を動物モデルを用いて解析し、新たな治療標的の発見につなげたい。
当初の研究計画を一部変更してミトコンドリア酸化傷害におけるinvitro系の研究を先行させたため、本年度施行予定であったマウスモデルの実験が次年度にずれ込んだため。
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