本研究の目的は、T 細胞の Bach2 発現が肺の恒常性を制御し、その発現異常が呼吸疾患の発症につながることを明らかにすることである。最終年度は、Bach2下流分子を標的とした呼吸器疾患治療について解析した。特に、Bach2 の発現低下や欠損による Th2 細胞自然免疫応答(サイトカイン依存的 Th2 細胞免疫応答)の活性化が引き起こす、慢性化アレルギー性気道炎症の治療について検討を行った。申請者らは、Bach2 の発現低下や欠損が、Th2 細胞の IL-7 反応性を増強し、Th2 細胞自然免疫応答を活性化することを明らかにしている。今回、Th2 細胞の IL-7 シグナルの下流に転写調節因子 Gfi1 が存在し、Gfi1 欠損により Th2 細胞自然免疫応答が低下することがわかった。一方、申請者らは、チオアミド系低分子化合物 SH-2251がGfi1を標的とし、抗原特異的 Th2 免疫応答を低下させることを報告している。そこで今回、Th2細胞自然免疫応答に対する SH-2251 の作用を解析したところ、SH-2251 は Th2 細胞自然免疫応答を低下させることがわかった。さらに、SH-2251 の経口投与は、T 細胞特異的 Bach2 欠損マウスで自然発症するアレルギー性気道炎症の病態を減弱させた。これらの解析から、Bach2 下流分子が Th2 細胞自然免疫応答とそれに続く慢性アレルギー性気道炎症の治療標的になる可能性が示された。また、SH-2251 は、抗原特異的 Th2 細胞免疫応答と Th2 細胞自然免疫応答を抑制する、アレルギー性気道炎症治療薬のシーズ化合物として有用であることが考えられた。 研究期間全体を通じて実施した研究により、T 細胞における Bach2 の発現変化が T 細胞の分化を制御し、肺の恒常性の維持に重要であることがわかった。
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