研究課題
肺に発生する悪性腫瘍は多彩であり、高悪性度胎児型肺腺癌や腸型肺腺癌、肝型肺腺癌など多くの組織型が希少癌として存在するが、それらの構成成分には少なからず通常型肺腺癌成分が含まれている。この事実は希少組織型肺腺癌細胞が通常型肺腺癌細胞から形質転換により発生する可能性を示唆している。今日の分子標的治療やがんゲノム医療の進歩は、腫瘍発生進展に深く関与するドライバー遺伝子の発見を基盤としており、中でも肺腺癌における分子標的治療は最も進歩している分野である。しかし希少組織型肺腺癌においては既知のドライバー遺伝子変異の頻度が低く腫瘍発生機序が不明であるため、分子標的治療が困難な状況にある。そこで本研究では種々の分化誘導遺伝子を通常組織型に由来する肺腺癌細胞に導入あるいは編集することにより希少組織型肺腺癌細胞への形質転換を試み、その組織発生機序を明らかにしていくこととした。本年度は、複数種の通常型肺腺癌株に対し、腸上皮分化、肝細胞分化に関与することが報告されている転写因子CDX2、CDX1、SALL4を遺伝子導入し、その分子生物学的変化について検索した。その結果KRAS変異腺癌株、EGFR変異腺癌株いずれにおいてもCDX2あるいはCDX1導入により腸上皮マーカーであるCK20やMUC2発現亢進、及び肺上皮に発現されるCK7の発現抑制が確認された。またSALL4導入によりAFPの発現亢進が一部の腺癌細胞株で確認された。
2: おおむね順調に進展している
複数の腺癌株に対し複数の転写因子遺伝子導入が成功し、腸上皮分化、肝細胞様分化マーカーの発現変動状態を検索することができたため。
本年度樹立した遺伝子導入株をSCIDマウス皮下に移植し、形成される腫瘍の組織学的、免疫組織化学的検索を行い、細胞種による形質転換状態の違いについて検討する。さらに、検索対象である4種の転写因子の相互作用の有無について検索を進めるとともに、形質転換の程度の強い細胞種については網羅的な遺伝子発現解析および遺伝子メチル化解析を行い、導入遺伝子に連動して上下する遺伝子や不活化する遺伝子について検索する。次にTP53遺伝子あるいはRB1ファミリー遺伝子のノックアウトにより分化脆弱性、幼若性を獲得した通常型肺腺癌株を作成し、これに上記の転写因子遺伝子を単独あるいは共導入することによる形質転換状態の変化を検討する。
物品費の値引きにより次年度使用額が生じた。翌年度分として請求した助成金と併せ、物品費の購入などに充当する。
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