研究課題
気管支喘息は気道を場とした慢性アレルギー性炎症である。この中心には抗原特異的Th2細胞、IL-4、IL-5、IL-13を始めとしたTh2サイトカイン、更には2型自然リンパ球(ILC2)が存在することが知られている。さらに近年の研究によりTh2細胞の分化、並びにILC2の活性化には気道上皮細胞の活性化、また活性化気道上皮細胞から産生されるIL-33、IL-25、TSLPといった上皮細胞由来サイトカインが重要な働きを持つことが示された。これまでに気道上皮細胞の活性化にはTLRやC型レクチン受容体など自然免疫に関わる受容体が必須であることが知られている。しかし、一方、気道上皮細胞の恒常性が如何に制御されているか、すなわち気道上皮細胞活性化が如何にして負に制御されているかは一切不明であった。本研究ではチリダニ(HDM)誘発性アレルギー性気道炎症を惹起したマウスから気道上皮細胞をFACSにより単離し、その遺伝子発現を単細胞RNAシークエンス法により解析することにより気道上皮細胞恒常性の制御機構を明らかにすることを目的とした。既報にみられるようにHDMを投与したマウスから単離した気道上皮細胞では、PBSを投与したコントロール群と比較して、IL-33、IL-25、TSLPなどの発現が有意に増加していた。さらに、IL-1ファミリーに属するIL-18の発現も上昇していることが明らかになった。また、経時的に気道上皮細胞のmRNA発現を観察することにより、HDM投与48時間後にはサイトカインの抑制因子であるIL-22 binding protein, IL-18 binding proteinなどの産生も亢進することが明らかとなった。これらの結果から、気道上皮細胞はサイトカイン産生に引き続き、その抑制タンパクも産生することにより恒常性を維持していると考えられた。
3: やや遅れている
HDM誘発性アレルギー性気道炎症モデルを作成し、そのマウスから気道上皮細胞を単離すること、さらに単離した細胞のRNAシークエンスを行うことに関しては順調に進んでおり概ね順調に進行していると考えている。一方、気道上皮細胞から産生される制御因子、抑制因子に関しては遺伝子欠損マウスを作成し、アレルギー性気道炎症の発症における働きをin vivoで解析することを予定していたが、予定していた共同研究者からのマウス納入がCovid 19の影響などにより遅れており全体的に判断すると、研究の進捗はやや遅れている。
今後はRNAシークエンスで同定した気道上皮細胞の制御因子を欠損するマウスを用いて、アレルギー性気道炎症の発症における働きを検討する予定である。具体的には気道上皮細胞特異的遺伝子欠損マウスを用いて、HDM誘発性アレルギー性気道炎症を惹起し気道好酸球浸潤、気道リモデリング、メサコリンに対する気道過敏性を比較検討する。さらに、自然リンパ球の気道浸潤、活性化、ならびにIL-33、IL-25、TSLPを始めとした気道上皮細胞由来サイトカイン産生を比較検討する。これらの解析により同定した制御因子のアレルギー性気道炎症における役割が詳細に解明される。
遺伝子欠損マウスの作成、およびその解析が遅れているため次年度使用額が生じた。2023年度にはIL-22BP欠損マウス、IL-18BPマウスの納入を急ぐとともに、これらの気道上皮細胞特異的欠損マウスを作成することにより、IL-22BP、IL-18BPの気道上皮細胞恒常性維持における働きを明らかにする。
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