研究課題/領域番号 |
21K08222
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
西 裕志 東京大学, 医学部附属病院, 講師 (90784174)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 腎臓 / 炎症 / 腎 / 白血球 / 好中球 / 血管生物学 |
研究実績の概要 |
好中球は細菌や真菌の感染から自己を守るが,その過剰な活性化は自己組織損傷を招きかねず,血管炎や糸球体腎炎などの活動期・急性期の中心的な病態と考察されている.我々が注目した核酸結合蛋白であるプロテインキナーゼ R (PKR) はマクロファージや樹状細胞においてウイルス核酸を感知して感染防御機構,特に eIF2α を介したインターフェロン産生を誘導するキナーゼである.一方,近年では中枢神経細胞の PKR が神経変性疾患における創薬標的意義としても注目されつつある.今回我々は,免疫学的腎炎の治療介入機転としての可能性を探る目的で,解析が進んでいない好中球における PKR 作用に注目した.血管生物学的見地からマイクロ流体フローチャンバーや古典的 Boyden チャンバーを用いてヒト好中球の PKR 機能解析を行った結果,好中球 PKR は内皮細胞上での好中球ローリングには影響しないが内皮細胞への好中球接着や白血球遊走因子に反応した好中球遊走で必要であった.また,静止状態では,好中球 PKR が細胞接着に伴う細胞進展と ICAM-1 への結合を媒介していた.さらに,遺伝学的 PKR 発現抑制好中球を用いてリン酸化抗体マイクロアレイを実施したところ,アクチン関連分子の一つであるカルシウム/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼII (CaMKII) が活性型 PKR によってリン酸化され,白血球遊走化因子に誘導されるアクチン重合も仲介することがわかった.さらに,マウス実験学的腎炎における腎糸球体における好中球集積と急性期アルブミン尿は,薬理学的な PKR 阻害によって減少した.このように,好中球 PKR は,微生物感染と関係しない血管炎症において,好中球内のアクチン重合を介した血管内皮接着や血管外遊走などの急性期炎症に重要な役割を担っていることが明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
近年シグナル分子としての DNA や RNA,また,それらに起因する炎症性シグナルの病態への寄与が徐々に明らかになってきている.研究主題である好中球の核酸結合蛋白として,既報に乏しく,他分野ではあるが創薬が進んでいる PKR に着目して,好中球の活性化における意義を検討した.この結果,PKR についてヒト好中球での発現,微生物非存在下での活性化,新規下流シグナル分子の同定,血管炎症における細胞動態への寄与,阻害薬マウス投与による固形臓器炎症の改善,をそれぞれ示すことができた.一方,新規のヒト ANCA 関連血管炎の動物モデルの樹立に向けて,既報を参考に複数の異なる薬理学的・免疫学的な白血球刺激をげっ歯類に与えることによって,血尿・蛋白尿を誘導することができたが,腎臓や細血管の病理組織学的な変化が依然として十分ではなく,さらなる条件検討が必要と判断された.
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今後の研究の推進方策 |
本研究に先行するスクリーニング実験からは,無菌性炎症における好中球活性化に寄与しうる,核酸結合蛋白シグナルに関連する分子が PKR 以外にも同定されており,今後その機能分析を細胞・生物個体の両レベルから進めていく.また,PKR/CaMKII シグナルでは好中球の内皮接着,遊走に重点を置いていたが,細胞外 DNA トラップや脱顆粒などの好中球活性型表現型に与える影響も検討する.また,継続して,ヒト血管炎を実験動物で再現するのに必要な実験条件を探る.
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