研究実績の概要 |
本研究はIgA腎症における尿中糖鎖プロファイルの変化について、レクチンカラムを用いたアフィニティークロマトグラフィー・質量解析により網羅的に解析し、新たな病態機序を解明することを目的としている。当院で腎生検を行った493例を対象に、45種類の異なる性質のレクチンを固定化したアレイにより尿中糖鎖を定量し、IgA腎症の診断能を評価した。血尿の有無、尿蛋白、血清IgAによる診断モデルに3種のレクチン(ACA, ABA, MAH)による尿中糖鎖シグナルを加えた場合、有意な判別能の改善を認めた。これらはいずれもT抗原(Galβ1-3GalNAc)を中心としたC1GALT1の生成物であるO型糖鎖の排泄低下を示している。これらのレクチン、およびC1GALT1およびCOSMCを用いてヒト腎組織を蛍光染色したところ近位尿細管での陽性を認め、尿中糖鎖排泄量の変化は近位尿細管細胞から分泌される、あるいは切断された糖タンパク質を反映している可能性が示唆された。 糖鎖の変化はO型糖鎖のガラクトース修飾不全を示唆しているが、レクチンは修飾糖鎖を認識しているため、IgA腎症の病態形成に関与する糖蛋白はこれまで特定されていなかった。 最も診断能が良好かつ腎機能で補正・層別化しても結果が変わらないACAを用いて、レクチンクロマトグラフィ・iTRAQ/TMTラベル法を用いた比較定量が可能な質量分析を行ったところ、IgA腎症においてO型糖鎖修飾異常を介したプラスミノーゲン/プラスミン制御系が病態に関与している可能性を見出した。
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