研究課題/領域番号 |
21K08239
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
松田 裕之 日本大学, 医学部, 助教 (10646037)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | COMMD5 / HCaRG / 急性腎障害 / 上皮細胞バリア / 慢性腎臓病 / レトリーバー複合体 |
研究実績の概要 |
従来、急性腎障害(AKI)は治る病気と考えられていたが、COVID-19の感染では、入院患者の約40%にAKIの発症が見られ、そのうち35%が死亡に至ったとの報告もあり、その死亡率の高さが再認識された。また、生活習慣病などの基礎疾患を持つ患者がAKIを起こすと、長期予後が著しく悪化することも知られるようになり、AKIが慢性腎臓病(CKD)に進展するメカニズムについて注目されるようになった。今回、尿細管上皮細胞の細胞死・脱落による尿細管上皮バリアの破綻がAKIの発症・進行に関わっているのではないか。そして、COMM domain containing 5 (COMMD5/HCaRG)は、E-cadherinを介して細胞間構造を強固にし、尿細管上皮バリアを安定化させ、尿細管上皮細胞が受けるストレスを軽減することでAKIの発症を予防し、腎臓全体の上皮間葉移行を抑制することでCKDへの進展を抑制しているのではないかと仮説を立てた。 本研究では、培養尿細管上皮細胞に過酸化水素曝露による一過性の酸化ストレスを加え、COMMD5の細胞保護メカニズムを検討した。コントロール群では、過度なミトコンドリア障害により、オートファジー・リソソーム分解経路がうっ滞し、リポフスチン顆粒が蓄積していたが、COMMD5は曝露後24時間後と早期にE-cadherinの発現を回復させ、ミトコンドリアのストレスを軽減し、アポトーシスを抑制した。COMMD5のE-cadherin制御メカニズムとして、COMMD5が形成するCCC-レトリーバー複合体の相互作用により、① E-cadherinの転写因子であるp21の発現をFoxO3aの脱リン酸化を介して制御している可能性と、② エンドサイトーシスで取り込まれたE-cadherinの細胞内リサイクリングを促進している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
近位尿細管特異的COMMD5高発現遺伝子改変(COMMD5-Tg)マウスを用いて、シスプラチンを単回投与した薬剤性腎症の実験では、投与後1から5日目の急性期において、COMMD5により腎機能障害や尿細管・間質の組織障害が軽減していた。COMMD5-Tgマウスの腎臓では、野生型マウスに比べて、アポトーシスやミトコンドリアの障害、酸化ストレスが有意に軽減されていた。野生型マウスではシスプラチン投与により分解されたE-cadherinも、COMMD5-Tgではアドヘレンスジャンクションの構成タンパクであるβ-cateninとともに保たれていた。シスプラチンを反復投与し8週間観察した、または片側腎虚血再灌流障害後8週間観察した間質線維化モデルを作製し、急性期から慢性期への腎障害の進行を観察したところ、COMMD5-Tgでは野生型マウスに比べて有為に腎萎縮が軽減されていた。現在、血清学的評価や遺伝子発現の評価等を行っている。 また、当初の予定より作出に時間を要したため遅れているが、京都大学より提供された近位尿細管特異的にタモキシフェン誘導性Creを発現するNDRG1-CreERT2マウスと、COMMD5 floxedマウスの交配により近位尿細管特異的COMMD5 conditionalノックアウト(COMMD5-cKO)マウスを得られた。現在、COMMD5-cKOマウスの繁殖を行っており、一部作製する腎障害モデルを変更し、COMMD5-Tgマウスで検証したシスプラチンと片側腎虚血再灌流障害による腎障害モデルをCOMMD5-cKOを用いて作製し、急性期と急性期から慢性期への腎障害の進行過程におけるCOMMD5の腎保護効果について再検証を行う。
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今後の研究の推進方策 |
COMMD5のE-cadherin制御メカニズムを明らかにするために、ヒトE-cadherinプロモーターをクローニングした。今後、COMMD5合成タンパクを使用し、E-cadherinプロモーター活性に与える影響を検討する。E-cadherin-GFP発現上皮細胞を用いて、障害時から修復過程におけるE-cadherinのメンブレントラフィックの経路を観察することで、COMMD5が形成するCCC-レトリーバー複合体が細胞膜タンパクの選択的リサイクル機能を担うとされているエンドサートーシス経路が関与しているかどうか検討する。 次に、COMMD5-cKOマウスを用いて、① 近位尿細管のCOMMD5を特異的にノックダウンした際に、急性期の近位尿細管上皮バリアはどのように変化するのか、② 急性期から慢性期への移行過程において、遠位尿細管や間質の障害は悪化するのかどうかを、急性腎障害モデルであるシスプラチン腎症や片側腎虚血再灌流障害モデルにて検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 現在、COMMD5-Tg マウスとCOMMD5-cKOマウスの繁殖・系統維持を行っている。COMMD5-Tg マウスはモントリオール大学より提供を受け、以前より当研究室で系統維持を行っていた。COMMD5-cKOマウスは、NDRG1-CreERT2マウスとCOMMD5 floxedマウスの交配により当研究室で新たに作製を行ったが、予定より作出に時間を要したため、繁殖数や飼育数に相違が生じ、次年度使用額が生じた。 (使用計画) 十分な繁殖数のCOMMD5-cKOマウスを確保した後に、急性腎障害モデルであるシスプラチン腎症や腎虚血再還流モデルを作製し、COMMD5の腎保護メカニズムを検証する予定である。そこで、翌年度分として請求した助成金と合わせて実験動物の飼育費や、病態モデル動物の免疫組織や遺伝子発現を解析するために必要な消耗品の購入等に充てる。
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