研究課題/領域番号 |
21K08239
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
松田 裕之 日本大学, 医学部, 助教 (10646037)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | COMMD5 / HCaRG / 急性腎障害 / 慢性腎臓病 / Epithelial integrity / E-cadherin / レトリーバー複合体 |
研究実績の概要 |
これまで、急性腎障害(AKI)は治る病気と考えられていたが、世界では毎年1300万人が罹患し、170万人が死亡に至っているとの報告もあり、その死亡率の高さや長期入院の要因となることが再認識されている。また、生活習慣病や癌などの基礎疾患を持つ患者がAKIを起こすと、治療の選択肢が限られ、長期予後が著しく悪化することが知られており、AKIの早期治療介入と慢性腎臓病(CKD)への進展予防について注目されるようになった。本研究計画では、尿細管上皮細胞の細胞死による尿細管の健全性の破綻が、AKIの発症・進展に関わっているのではないか。そして、COMMD5/HCaRGは、カドヘリンなどの細胞間構造の安定性を制御して尿細管の健全性を保ち、細胞が受ける障害を軽減することでAKIの発症を予防し、CKDへの進展を抑制しているのではないかと仮説を立てた。野生型マウスの薬剤性AKIモデルで観られたカドヘリンなどの細胞間接着因子の破壊と、損傷ミトコンドリアや2次リソソームの蓄積は、COMMD5高発現マウスで減少しており、腎機能障害や組織障害も軽減されていた。薬剤及び虚血障害後のCKDモデルにおいて、COMMD5は腎萎縮及び間質の線維化を抑制していた。COMMD5高発現培養細胞に酸化ストレスを加え、COMMD5の細胞保護メカニズムを検討した。コントロール群では、活性酸素種の産生増加が認められ、in vivoと同様に、損傷ミトコンドリアやリポフスチン顆粒の蓄積が観察された。また、ミトコンドリアJNKの活性化を伴ったアポトーシスの増加が観察された。COMMD5は、膜輸送体であるCCC-レトリーバー複合体を形成することが知られており、何らかの細胞内膜輸送の制御を介して尿細管の健全性を保つ事で、活性酸素種の産生が抑制され、ミトコンドリア障害やオートファジー機能不全が軽減され、腎保護に働くと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
近位尿細管特異的COMMD5高発現(COMMD5-Tg)マウスにシスプラチンを投与し作製した急性腎障害(AKI)モデルでは、野生型(WT)マウスに比べ腎機能障害や組織障害が軽減しており、ミトコンドリア障害、酸化ストレス、細胞死も抑制されていた。さらに、電子顕微鏡下において、近位尿細管上皮細胞内の損傷ミトコンドリアや2次リソソーム、リポフスチン顆粒の蓄積も軽減されていた。シスプラチン投与により、WTマウスで破壊されたカドヘリンやカテニンなどの細胞間接着因子やKlothoなどの他の腎保護因子も、COMMD5-Tgマウスでは保たれていた。シスプラチンを2ヶ月間反復投与し作製した慢性腎臓病(CKD)モデルと、片側腎虚血再灌流障害(IRI)後2ヶ月後まで観察したCKDモデルにおいて、COMMD5はWTマウスに比べ、腎萎縮及び間質の線維化 (AKIからCKDへの移行)を抑制していた。これまで作出が遅れていた近位尿細管特異的COMMD5ノックアウト(COMMD5-cKO)マウスでは、腎臓のCOMMD5が1/3以下に抑制され、IRI直後の腎機能がWTマウスより悪化していることが確認できた。今後、進行が遅れているCKDモデルもCOMMD5-cKOマウスで作製し、AKIからCKDへの移行におけるCOMMD5の腎保護メカニズムについて更に検証を行っていく。培養細胞でCOMMD5をノックダウンしたところ、高発現細胞での検証と同様に、カドヘリンの発現が抑制され、酸化ストレスが増大し、損傷ミトコンドリアの蓄積と細胞死が誘導された。細胞障害後の各転写因子の誘導が遅延し、カドヘリンの再発現も遅く、上皮細胞の健全性の破綻が遷延していることが示唆された。COMMD5は、膜輸送体であるCCC-レトリーバー複合体を形成することが報告されており、膜輸送と尿細管の健全性維持メカニズムとの関連について検証を行う。
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今後の研究の推進方策 |
近位尿細管特異的COMMD5ノックアウト(COMMD5-cKO)マウスにタモキシフェンを投与し、COMMD5をノックアウトした後通常飼育し、1ヶ月後に腎臓を観察したところ、コントロールマウスに比べ軽度の腎萎縮が確認された。一過性の腎機能障害であっても、急性腎障害(AKI)は細胞内にさまざまな変化を引き起こすため、AKIの既往が長期的に慢性腎障害(CKD)に至るリスクとなることが報告されている。腎臓、特に尿細管は、再吸収や分泌を通じて多くのエネルギーを必要とする臓器であり、加齢とともにその機能は低下する。そして、高齢者ほどAKI及びCKDを発症しやすく、加齢はCKDの最大のリスクファクターの1つである。これまでの検討から、COMMD5は尿細管の健全性を保つことで、エネルギー産生の場であるミトコンドリアの恒常性と、不良蛋白質や老廃物を分解するオートファジーの機能を保全している事が示唆された。今後、COMMD5を含む膜輸送体であるCCC-レトリーバー複合体とKlothoなどの老化制御因子との関係及び、COMMD5の長寿遺伝子としての可能性を検討する。具体的には、COMMD5-cKOマウスを用いて、(1) 片側腎虚血再灌流障害による腎障害モデルを作製し、(2) 高脂肪食負荷やストレプトゾトシン投与により糖尿病などを惹起した生活習慣病モデルを作製し、CKDへの進展や寿命への影響について、形態学的・生化学的手法を用いて検証する。これらのメカニズムを明らかにすることで、AKIの新たな治療法や予防法へと応用でき、CKDさらには慢性加齢性疾患の新たな治療戦略の確立へつながると期待できる。
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