本研究では、フローサイトメトリー(FCM)を用いて腎線維化の機序を解明すること目的とした。まず、片側尿管結紮(UUO)を施したマウスの腎臓細胞をFCMで解析した。その結果、UUO後14日頃をピークにαSMA陽性細胞が増加し、αSMAとPDGFRβの間に強い相関を認めた。そこでPDGFRβが筋線維芽細胞の適切なマーカーであると考え、UUOマウスの腎臓からFCMを用いてPDGFRβ陽性細胞を単離した。また、UUOマウスの腎臓で増加が見られるF4/80陽性細胞も同様に単離し、両細胞の比較を行った。FCMの条件を調整することで、それぞれの細胞を約90%の純度でソートすることに成功した。Western blot解析の結果、PDGFRβ陽性細胞からコラーゲン1の発現が確認され、F4/80陽性細胞では発現がみられなかった。続いてPDGFRβ陽性細胞とF4/80陽性細胞からそれぞれmRNAを抽出し、線維化や炎症細胞の遊走、分化に関連する分子についてqPCRを用いて検討した。PDGFRβ陽性細胞ではcol1a、Acta2、IL1r1、CX3CL1のmRNAの上昇がみられ、F4/80陽性細胞ではPDGFb、IL-1β、Ccr2、Ccr5、Ccl2、Ccl3、CX3CR1の発現亢進がみられた。最後に、PDGF陽性細胞の形質変換の詳細を検討するために、マウス腎臓よりPDGF陽性細胞をFCMにより単離し、マトリジェルで培養したり、健常マウスの皮下や腎実質に注入したりして観察した。しかし、現時点では単離細胞の長期生存は得られていない。以上の結果から、PDGFRβ陽性細胞の一部が筋線維芽細胞となり、F4/80陽性細胞はPDGFを産生し、さまざまなサイトカインやケモカインを産生して炎症や線維化の促進に関与している可能性が示唆された。PDGF陽性細胞の単離培養は今後の課題である。
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