研究実績の概要 |
当院で2018年から2020年までの間に抗癌剤治療を受けた2644名の後方視的観察研究を行った。eGFRが前回のeGFRに比して30%以上低下するものをAKIと定義して、AKIに関連する抗がん剤をまずは見だした。平均年齢は65歳で平均eGFR は71 (59-84) mL/min/1.73m2であった。Pembrolizumab, trastuzumabと oxaliplatinがAKIと関連し、そのオッズ比(95%信頼区間)はそれぞれ 1.52 [1.03-2.23], 2.78 [1.26-6.12],1.72 [1.20-2.46]であった。 抗癌剤以外のリスク因子は高いCRPとループ利尿薬やトルバプタン、抗血小板薬の使用であった。PembrolizumabやtrastuzumabとAKIの関連はNSAIDs使用患者で特に強かった。 抗腫瘍薬による電解質異常を早期に捕捉できるようにするため、2021年5月から当院で電子カルテ上で自動的に各科主治医に腎臓内科受診を促す「電解質バスターズ」なるシステムを構築した。実際に依頼を行うかどうかは担当医師の判断にゆだねた。紹介基準はNa<125, Na>160, K<2.5, K>6.0, 補正Ca<7.5, 補正Ca>11.5, Mg<1.0, Mg>4.0 mEq/Lとした。電解質バスターズ導入前後6か月の依頼箋数を比較したところ、K異常は導入前後で紹介数は変わらなかったが、Na, Ca, Mg異常は各々2倍に増え、3つの電解質異常をまとめると依頼のincident rate ratioは2.01(95% CI: 1.00-4.24)となった。依頼の最も多い低Na血症16例のうち、5例がSIADH、5例が薬剤性(抗癌剤や利尿剤)を含む腎性Na喪失、3例が水中毒と診断され、SIADHの2例にトルバプタンを導入しNa濃度が改善した。
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