研究課題/領域番号 |
21K08265
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
福田 昇 日本大学, 医学部, 教授 (40267050)
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研究分担者 |
阿部 雅紀 日本大学, 医学部, 教授 (70459890)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 多発性嚢胞腎 / 疾患特異的iPS細胞 / PIポリアミド / 腎オルガノイド / GSK3β |
研究実績の概要 |
常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)は遺伝性疾患であり、ADPKD患者から樹立した疾患特異的iPS細胞は、患者の遺伝情報を保持したあらゆる細胞を作製しうる。我々はヒトiPS細胞から腎オルガノイドを効率よく誘導する方法を検討してきた。予備実験において、マウス集合管M1細胞株ではVR2受容体を介したバソプレシン刺激よりも、フォルスコリンによるCREB、GSK3β、cAMP系の直接刺激の方が著明に集合管細胞増殖が認められたことから、GSK3βプロモーターの転写因子CREBを抑制するPIポリアミドが、より有効なADPKDの嚢胞形成抑制が期待出来ると考えた。そこで今回ADPKD患者由来疾患特異的iPS細胞を樹立し、その後腎オルガノイドを誘導し、腎オルガノイドの増殖に対するGSK3β PIポリアミドの効果を検討し創薬開発を行った。PIポリアミドは2本鎖DNAのminor grooveに結合するようヘアピン型構造でその効果を検討するが、今回は共同研究にて環状型PIポリアミドも開発した。環状型PIポリアミドはヘアピン型よりも2本鎖DNAの結合が安定しており、1オーダー低濃度で遺伝子発現抑制効果を示した。 ヒトGSK3β PIポリアミド分子設計として、CREB結合配列をヒトGSK3βプロモーターに跨がるように複数分子設計した。疾患特異的iPS細胞の樹立としてADPKD患者および健常人から単核球を分離し、山中4因子センダイウイルスベクターを感染させ、アルカリホスファターゼ染色でiPS細胞形成の評価を行った。腎臓オルガノイドの誘導はFGF9で分化開始から7日後細胞を培養皿より分離し、遠心分離により試験管内において再集合体を形成させた後、メンブレンフィルターの上で最長で20日間にわたり3次元培養を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
令和3年度内にヒトGSK3β PIポリアミドの分子設計を行い、ヒトGSK3βプロモーター構造を詳細に、CREB結合配列をソフトウエアPROMOにて解析し、ヒトGSK3βプロモーターに跨がるように複数分子設計できた。マウスのGSK3β PIポリアミドの結合部位との比較を行った。 疾患特異的iPS細胞の樹立(福田):ADPKD患者および健常人から末梢採血しFicollにて単核球を分離し、PBMC-CM培地に播種、培養し、翌日山中4因子センダイウイルスベクターを感染させた。ベクターの感染/細胞数のカウントとして21日目までにES 培地を添加、アルカリホスファターゼ染色でiPS細胞形成の評価を行う。iPS細胞から腎臓オルガノイドの誘導はTakasakaらの方法(Nature 2015)に基づき、FGF9で分化開始から7日後に細胞を培養皿より分離し、遠心分離により試験管内において再集合体を形成させたのち、メンブレンフィルターの上で最長で20日間にわたり3次元培養する。再集合体は成長し、3日目には腎包の形成がみられ、11日目にはネフロンを自発的に構築する直径3~5 mm程度のオルガノイドが形成された。ADPKD患者2名の末梢血単核球より樹立したiPS細胞から腎臓オルガノイドを分化誘導した。分化誘導15日目に腎胞様構造物の形成を認め、25日目には糸球体様構造物の発生を認めた。明視野での観察において、健常人由来の腎臓オルガノイドと比較しADPKD患者由来腎臓オルガノイドでは個々の糸球体様構造物はサイズが小さかった。ADPKD患者由来の腎臓オルガノイドに対して遺伝子発現解析を行った。ADPKD患者P1由来の腎臓オルガノイドではPODXL、CD13、SGLT2、OCT1、AQP1、NKCC2、NCCT、AQP3の発現を認めた。このように令和3年度は予定通りの研究が進捗できた。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度からヒトGSK3β PIポリアミドの開発研究を行っていく。まずヒトGSK3β PIポリアミドリード化合物の決定として、ADPKD患者由来腎臓オルガノイドに1μM バソプレシンを添加し、6種類のヒトGSK3β PIポリアミドリード化合物を0.01、 0.1、1μMの濃度で添加し、14日間培養し、腎臓オルガノイドの面積をIMAGE-Jにて評価、ヒトGSK3β PIポリアミドリード化合物を決定する。さらにADPKD患者P1由来の腎臓オルガノイドで認めたPODXL、CD13、SGLT2、OCT1、AQP1、NKCC2、NCCT、AQP3の発現に対する作用を検討する。 次にヒトGSK3β 環状PIポリアミドの合成を行う。京都大学理学部生物化学の板東との共同研究として、ヒトGSK3β PIポリアミドのリード化合物をヘアピン型から環状型PIポリアミドにする。このヒトGSK3β 環状PIポリアミドを従来のヘアピン型ヒトGSK3βPIポリアミドの効果との比較を行う。ADPKD患者由来腎臓オルガノイドに1μMフォルスコリンを添加し、ヘアピン型、環状型ヒトGSK3β PIポリアミドリード化合物を0.01μMの濃度で添加し、14日間培養し、腎臓オルガノイドの面積をIMAGE-Jにて評価し、どちらが強力か判定する。さらに腎臓オルガノイドのPODXL、CD13、SGLT2、OCT1、AQP1、NKCC2、NCCT、AQP3の発現に対する作用を比較検討する。
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