研究課題
本研究では、マンノースなどの単糖機能性食品に着目して、嚢胞性腎疾患群に対する予防療法もしくは、既存薬剤のトルバプタンとの併用療法を提案することが目的である。特に、マンノースから代謝・生合成されるUDP-マンノースやGDP-2-デオキシマンノースという希少糖ヌクレオチドに着目して、糖鎖修飾を介する病態形成機序を解明することで、糖鎖の病態抑制効果を検証する。本年度は、昨年度構築した糖ヌクレオチド探索法に、イオンモビリティーという気相分離法を組み合わせたシステムを検討した。UDP糖の標準品を用いて気相分離の状況を評価したところ、予想に反してUDP-ガラクトース, UDP-グルコース, UDP-マンノースを各々分離できないことがわかった。したがって、本研究では昨年度構築したHILIC-ESI-MS/MSによる方法を単独で使用することにした。次に、微量分子を検出するためのモデル実験を行った。2-デオキシグルコース存在下のメラノーマ細胞株から、GDP-2-デオキシマンノースが生じることを確認した。さらに約10種類の希少糖(D-アロース、D-プシコース、D-タガトースなど)を加えた試料から未知ピークを検出し、化学合成品をもとに同定を試みた。その結果、D-アロース添加時にUDP-アロースが生じる可能性が期待されたが、検証の結果、そのような新分子は存在しないことが明らかになった。一方、D-アロースを添加するとUDP-GlcNAcが著しく減少すること、それに伴いタンパク質のO-GlcNAc化に影響がみられた。本結果は希少糖による糖ヌクレオチド変化が糖鎖修飾に影響を及ぼすという新知見を示すものであり、本内容に関して、2件の学会報告を行った。
3: やや遅れている
本研究は希少糖ヌクレオチドを介する嚢胞性腎疾患の病態機序解明を目指して、1)希少糖ヌクレオチド解析法の検討、2)希少糖ヌクレオチドによる糖鎖修飾の探索と役割の解明、3)嚢胞腎の予防療法、4)バイオマーカー探索を計画している。研究代表者は昨年度、岐阜大学の糖鎖生命コア研究所に異動して以来、研究を進めやすい体制になりつつある。しかし、我々が所有する高速液体クロマトグラフ質量分析計(Synapt XS)の感度と分解能が、予想に反して、目標スペックに到達しないことが明らかになった。よって微量な希少糖ヌクレオチドの検出は難しく、計画1の研究を効率よく進めることが困難であった。計画2では、希少糖ヌクレオチドを新たに検出できなかったことから、D-アロース添加時に減少したUDP-GlcNAcの影響を検討した。糖鎖の定量解析を行ったところ、O-GlcNAc化修飾タンパク質の発現量が下がっていること、一方、ヒアルロン酸などの糖鎖に差が無いことがわかった。N型糖鎖やO型糖鎖修飾への影響は、解析系のセットアップまで完了したが、本年度検証できなかった。一方、計画3と4で示した希少糖の機能性評価試験は、本務にエフォートをさいていたため実施できなかった。人員体制が整いしだい進めていく。
研究代表者は現在、糖鎖分析の自動化と多検体分析システムを構築している。その一環で、糖ヌクレオチドの代謝連関について検討を進めていく。次年度は、昨年度構築した糖ヌクレオチド解析系の自動化を進めていく。研究代表者は、国内で初めて前処理ロボットとLC-MSをオンライン接続した全自動のリン脂質リピドミクスを構築した経験から、現在、磁性粒子を用いる迅速グライコプロテオミクスのプロトコルを最適化している。よって本研究はその技術を糖ヌクレオチドの迅速精製に応用して、スループットを高めていく。既に細胞に含まれる糖ヌクレオチドを磁性粒子を用いて精製できる予備的な知見を得つつあり、さらにロボットを用いて自動化を進めていく。計画2では、現在所有するグライコプロテオミクスの解析基盤を、希少糖の機能探索に応用する。例えばD-アロースにより変動したO-GlcNAc化タンパク質の同定に活用する。また昨年度見出したUDP-マンノースを介する糖鎖修飾反応をグライコプロテオミクスにより探索する。我々は既に或るマンノース認識レクチンの一つが、GDP-マンノース非依存的な糖鎖を検出できる可能性をいるため、次年度は、それらのレクチンビーズを用いてキャリヤータンパク質を探索する。他にも嚢胞性腎疾患における糖タンパク質バイオマーカーの探索など、嚢胞性腎疾患の病態解明やバイオマーカーに貢献する糖鎖を探索する。
研究代表者は昨年度から、糖鎖を専門に研究している岐阜大学 糖鎖生命コア研究所に異動して、新たに研究室を立ち上げた。そのスタートアップに加え、文部科学省 大規模研究フロンティア事業「ヒューマングライコームプロジェクト」の準備に尽力したため、研究の遂行に後れが生じ、次年度に研究費を使用することになった。
すべて 2022 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件) 備考 (2件)
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