内因性non-coding RNAであるmicroRNAは、様々な遺伝子発現を制御し腎疾患の発症進展に関与するが、その調節機序や臨床的意義は十分に検討されていない。本研究の目的は、microRNAの尿中発現と腎病変、遺伝素因・環境因子、腎・生命予後との関連を検討し、尿microRNAの新規バイオマーカーとしての有用性を明らかにすることである。本研究では、健常者・腎疾患患者計約200名の尿検体と腎生検組織検体を用いた。これまでの検討の結果、以下の点が明らかとなった。①全例で尿中microRNAを検出可能であった、②腎生検組織のIn situ hybridization法による検討では、糸球体、尿細管、間質の各細胞に様々な種類のmicroRNAが発現しているが、特に近位・遠位尿細管上皮細胞での発現が強かった。③腎組織と尿のmicroRNA発現の程度は有意な正相関を示した。④腎病変の種類により尿中の高発現microRNAプロファイルが異なっていた。⑤マイクロアレイ解析によりIgA腎症の腎機能低下・治療反応性と関連する尿microRNAが複数検出された。⑥尿中miR-21濃度は1年後の腎機能低下度と有意に相関していた。⑦尿中miR-5195濃度はステロイドによる治療反応性と相関した。以上の結果から、尿中microRNA発現は、腎組織病変、腎機能低下速度、治療反応性と相関しており、腎疾患の新規バイオマーカーとして利用できる可能性が示された。しかしながら、尿中microRNAは抽出・測定が簡便でない、基準となるmicroRNAがなく定量法が確立されていない、などの課題がある。そのため、尿中microRNAの実臨床への社会実装には、症例を集積し、これらの課題を克服する必要があると考えられた。
|