研究課題
IgA腎症は、我が国で最も頻度の高い原発性糸球体腎炎であり、予後不良の指定難病である。扁桃摘出術(扁摘)やステロイド療法の有効性が報告されているが、医療経済的な観点からも、IgA腎症に対する疾患特異的治療法の開発が望まれている。本研究では、モデル動物とヒト扁桃細胞を用いて、TLR9の過剰活性化がおこるメカニズム、TLR9/TLR7の相補的制御について解明し、TLR9/7のシグナル伝達経路を抑制するヒドロキシクロロキン(HCQ)をはじめとする粘膜免疫応答を制御する治療法を確立することを目的とする。初年度はまず、TLR9の過剰活性化調節機構を解明するために、IgA腎症発症モデル(GddYマウス)、非発症ddYマウスおよびBALB/cマウスの脾臓と腸管膜リンパ節を用いて、TLR9/TLR7およびアダプター分子であるMyD88の発現や、TLR9の発現に関わる転写因子であるNFκB、HDAC3の差異を解析した。MyD88とNFκBは、GddYマウスの脾臓で有意に発現が亢進していたが、HDAC3の発現は各群間での有意差は認めなかった。腸管膜リンパ節においては、MyD88、NFκB、HDAC3のいずれの発現も各群間で有意差は認められなかった。次に、TLR9/TLR7の相補的制御の解明を行うために、TLR9のリガンドであるCPG-ODN、或いはTLR7のリガンドであるImiquimodで刺激すると、いずれの群でも血中の糖鎖異常IgA、IgG-IgA免疫複合体の産生亢進がみられ、IgA、C3の沈着を伴った糸球体腎炎の増悪を認めた。TLR9/TLR7の下流のシグナルである、MyD88とNF-κBの発現亢進も認められた。以上より、少なくともマウスIgA腎症においては、TLR7とTLR9のいずれの活性化も関与していることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
当初は新型コロナパンデミックによる研究スタッフの削減の影響と、実験施設の移転などによりマウスを用いた実験が計画通りに進まなかったが、年間を通しては、ほぼ予定通りの実験計画を推進できている。
これまでの研究により、マウスIgA腎症においては、TLR7とTLR9のいずれの活性化も関与していることが示唆された。これまで糖鎖異常IgAの産生系にAPRILやIL-6が関与していることが明らかとなっており、TLR7とTLR9の発現と、APRILやIL-6との関連性を解明すること、また、TLR7単独阻害、TLR9単独阻害、TLR9/TLR7阻害剤を投与することで、腎症の表現系とTLR9/TLR7シグナルの活性化の関連を解析する。
研究はほぼ予定通り進捗したが、14,248円と若干の研究費を残した。次年度に移行し無駄なく使用する。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 3件)
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