研究課題/領域番号 |
21K08286
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
柳川 宏之 順天堂大学, 医学部, 助教 (60722759)
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研究分担者 |
鈴木 仁 順天堂大学, 医学部, 教授 (10468572)
鈴木 祐介 順天堂大学, 大学院医学研究科, 教授 (70372935)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | IgA腎症 / MHC class2 / 遺伝子多型 / ddYマウス / gddYマウス |
研究実績の概要 |
IgA腎症自然発症マウスであるddY マウスの主要組織適合遺伝子複合体(MHC) classⅡ領域の遺伝子配列をsanger sequencing法を用いて決定した。その結果、ddY マウスのMHC classⅡのハプロタイプが3つに分類できる(以下、ddY(s/s), ddY(s/q), ddY(q/q)と記載)ことが明らかになった。さらに、先行研究で樹立した、早期発症群のddYマウスを選択的に交配させ、全例で早期発症のphenotypeを示すgddYマウスのMHC classⅡのハプロタイプを調べると、s/sであることも明らかになった。また既報にて、ddYマウスは20週齢までに発症する早期発症群、40週齢までに発症する晩期発症群、60週齢以降も発症しない未発症群の3群に分類できることが明らかになっている。そこで、「ddY(s/s)が早期発症群である」という仮説の下、研究を行った。本研究では、まずハプロタイプs, qをそれぞれ認識する抗マウスMHC classⅡ抗体(OX-6, NIMR4)を用いてタイピングを行い、各マウスのMHC classⅡのハプロタイプを決定した。20匹のddYマウスに対してタイピングを行い、ddY(s/s)が8匹、ddY(s/q)が9匹、ddY(q/q)が3匹であった。それらマウスの30週齢以降の尿タンパクの評価を行い、40週時点での糸球体の蛍光免疫染色(IF)と免疫染色で組織の変化を評価した。40週齢時点でddYマウスにおいて、Balb/cマウスと比較して有意に尿蛋白の増加を認め、IFで糸球体へのIgAの沈着とPAS染色にてメサンギウム細胞の増多を認めた。しかしながら、ddY マウスの MHC classⅡのハプロタイプ間で比較をすると、尿タンパク、IF所見、PAS染色での組織所見に相違は認めなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現時点でddY マウスにおけるハプロタイプ間のphenotypeの相違を見出すことができていない。ddY マウスを4週齢以降、4週齢毎(4週齢より開始し24週齢まで、それぞれN=8)にIFで糸球体へのIgAの沈着を評価したところ、全ての週齢で糸球体へのIgA沈着を認めたがタンパク尿の出現は認めなかった。当初の予想と反して、先行研究で報告されたように、ddYマウスにおけるIgA腎症の発症時期による分類ができなかった。原因としては、ddYマウスは近交系マウスであるため、遺伝子は統一されておらず、起源のコロニーが異なることでphenotypeに相違が生じる可能性がある。また、先行研究のddY マウスではMHC classⅡのハプロタイプによるタイピングを行っておらず、今回の研究で使用したddYマウスとは異なるハプロタイプであった可能性がある。近年の全ゲノム関連解析(genomie-wide association study;GWAS)により、MHC classⅡ領域の遺伝子多型が、IgA腎症と強く相関を持つことが明らかにされている。本研究では当初、「ddY(s/s)が早期発症群、 ddY(s/q)が晩期発症群、ddY(q/q)が未発症群」と仮説を立て検証を行ったが、ddYマウスの糸球体にはIgAが沈着し、Balb/cマウスには沈着しないことから、ハプロタイプsとqいずれもがIgAの糸球体への沈着、そしてIgA腎症の発症に関与する可能性を考える。ddYにおいて、IgAが沈着し発症にまで至るための糖鎖異常IgAを含む要素を検討する必要があると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
先行研究にて、ddYマウスにToll like receptor 9(TLR9)のアゴニストである非メチル化CpG DNAを経鼻的に投与することで、ガラクトースを欠損する糖鎖異常 IgAの産生が誘導され、腎炎が増悪することが明らかになっている。現在提唱されているIgA腎症の病態仮説であるmuti-hit仮説においてもこの糖鎖異常IgAの増加が1st hitとされており、IgA腎症の発症に大きく関わっていることが知られている。この糖鎖異常IgAが存在することだけでIgA腎症は発症するのか、さらにCpG DNAの経鼻投与による糖鎖異常IgAの誘導はddYマウスでのみ認めるかを検証することとする。具体的には、IgA腎症の疾患モデルではないBalb/cマウスに対して同様にCpG DNAを経鼻投与し、糖鎖異常IgAの産生が誘導されるか確認する。誘導された場合には、糸球体へのIgA沈着と組織所見を評価し、IgA腎症の発症の有無を確認する。この検証により、CpG DNAによる糖鎖異常IgAの誘導がddYマウスに特異的なものであるか、さらに糖鎖異常IgAの存在のみでIgA腎症が発症するのか否かが明らかになると考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
ddYマウスを用いた更なる詳細な検討と糖鎖異常IgAの評価については、今年度に間に合わなかったため、来年度に予算計上とした。
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