IgA腎症の発症メカニズムを解明するために、toll like receptorと自己抗体に着目した。先行研究で、ddYマウスにTLR9のアゴニストである非メチル化CpG DNAを経鼻的に投与することで、ガラクトースを欠損する糖鎖異常IgAの産生が誘導され、腎炎が増悪することが明らかになっている。現在提唱されているIgA腎症の病態仮説であるmuti-hit仮説において、この糖鎖異常IgAの増加が1st hitとされており、IgA腎症の発症に関与していることが知られている。さらに、IgA腎症モデルマウスであるgrouped ddY (gddY)マウスとIgA腎症患者の血清中に、腎メサンギウム細胞表面タンパクに対するIgA型自己抗体が存在することが明らかになり、マウスではこのIgA自己抗体が糸球体に沈着することが判明している。以上を踏まえて、糖鎖異常IgAとIgA型自己抗体のどちらがIgA腎症の病態の主座であるのかを検討するために、自己抗体が存在しない状況下で、糖鎖異常IgAを誘導することでIgA腎症が発症するかを検証することとした。まず、自己抗体が存在しないBalb/cマウスを用い、同マウスで糖鎖異常IgAを誘導できるかを検証した。Balb/cにCpG DNAを経鼻的に投与したところ、予想に反し糖鎖異常のIgAは誘導されず、糸球体へのIgAの沈着や尿タンパクの出現を認めなかった。ddYマウスの鼻咽腔関連リンパ組織内にのみ存在する異常B細胞がTLR9の刺激で糖鎖異常IgAを誘導すると考えられた。現時点で、自己抗体が存在せず糖鎖異常IgAのみが存在する状況を作れておらず、自己抗体と糖鎖異常IgAのいずれが病態の主座であるかは不明である。
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