研究課題/領域番号 |
21K08297
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
矢澤 重信 岐阜大学, 大学院医学系研究科, 招へい教員 (30392153)
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研究分担者 |
大沢 匡毅 岐阜大学, 大学院医学系研究科, 教授 (10344029)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | メラノーマ / PROTAC / ユビキチン化 / プロテインノックダウン / ナノボディ / E3ユビキチンリガーゼ |
研究実績の概要 |
近年、ユビキチン-プロテアソーム系を利用したプロテインノックダウン法による標的タンパク質分解誘導薬(PROTAC)という新しいタイプの創薬研究が注目を集めている。本研究では標的分子に結合する低分子化合物に代わって、特異的な低分子化抗体(ナノボディ)を用いたプロテインノックダウンによる新規の標的タンパク質分解誘導薬の開発を目的とし、ナノボディ-E3ユビキチンリガーゼ融合タンパク質によるプロテインノックダウンの実証、ならびに各種E3ユビキチンリガーゼにおける標的タンパク質分解の有効性の比較検証による最適化を行う。これに基づき、効果的な治療法の確立が急務となっている難治癌の一つである悪性黒色腫(メラノーマ)を対象とした治療薬の開発を目指し、メラノーマにおける標的タンパク質の探索とそのプロテインンノックダウンの実証によるメラノーマ治療薬の開発に挑戦する。 ヒトは600種類以上のE3ユビキチンリガーゼを持つと推定されており、比較検証用として12種のユビキチン化ドメインとナノボディの融合タンパク質発現コンストラクトを用意した。蛍光レポーターを発現する培養細胞株にこれら検証用コンストラクトを強制発現し、蛍光強度の減少を指標としてプロテインノックダウンの有効性の検証を行った。またメラノーマにおけるプロテインノックダウンの標的分子としてMitfと活性型BrafおよびNrasに注目し、これらの分子を特異的に認識するナノボディーを得るためのナノボディライブラリのスクリーニングを進めている。また、ナノボディーとE3ユビキチンリガーゼの融合タンパク質をメラノーマ細胞に発現させるための手法としてSelf-amplifing mRNAをナノパーティクルに封入しトランスフェクションする手法の構築を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
B16メラノーマ細胞のチロシナーゼ遺伝子座(Tyr)にCRISPR/Cas9システムを用いてmNeonGreen-ALFA-Tag 遺伝子をノックインすることによって、Tyr-mNeonGreen-ALFA-Tag融合タンパク質を発現するレポーター細胞株を作製した。この細胞に抗ALFA-ナノボディ-と12種類の異なるE3ユビキチンリガーゼの融合タンパク質を発現するコンストラクトをそれぞれトランスフェクションし、最もタンパク質のノックダウン効率が高いE3ユビキチンリガーゼをスクリーニングした。その結果、E3ユビキチンリガーゼとしてSPOPのC末ドメインを用いた場合に高いノックダウン効率が得られることが判明した。したがって、以後はSPOPのC末ドメインとナノボディとの融合タンパク質を用いて実験を行なった。 次に、Proof-of-concept実験としてメラノサイトのがん化に関与する活性型Nrasを認識するsingle chain fragment variable (scFv)抗体とSPOPのC末ドメインを融合させた融合タンパク質(scFv-SPOP)を発現させるためのベクターを作製し、活性型Nras 依存的に増殖するヒトメラノーマ細胞株、及び活性型Braf依存的に増殖するヒトメラノーマ細胞株にベクターをトランスフェクションした。その結果、活性型Nras 依存的に増殖するヒトメラノーマ細胞株にscFv-SPOPを強制発現せた場合に細胞増殖の抑制が認められ、本アプローチ法の有効性が示唆された。 またメラノーマにおけるプロテインノックダウンの標的分子としてMitf(Mアイソフォーム)と活性型BrafおよびNrasに注目した。これらの分子を特異的に認識するナノボディを得るために、ナノボディライブラリーを入手し、酵母ディスプレー法によってナノボディを選別するための準備を行なっている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度行なったProof-of-concept実験によって我々のアプローチ法の有効性を確かめることができた。今後は、特異的なナノボディを取得することと、ナノボディとE3ユビキチンリガーゼのユビキチン化ドメインの融合タンパク質をメラノーマ細胞中で強制発現させるためのシステムを構築することが重要な課題である。将来的な臨床的応用を見据え、融合タンパク質の強制発現にはDNA やウイルスベクターを使用せず、脂質リポソームを使用してmRNAを細胞以内に導入する方法を採用する予定である。このような手法を用いることによって遺伝子発現について安全性を高める努力を行う。また、メラノーマ細胞中で長期間の強制発現を実現するために自己増殖性mRNAシステムを活用することを考慮している。これについては、現在、MITとMTAを結ぶ手続きを行なっている最中である。
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次年度使用額が生じた理由 |
試薬購入用予算に計上した予算に余剰ができたが、無理をして使用せずに次年度に持ち越した。最終年度の予算には大きな変更がない。
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