慢性蕁麻疹は明らかな誘因無く、長期にわたりほぼ毎日膨疹が繰り返し出没する疾患であり、何らかの刺激を受けた皮膚マスト細胞・好塩基球から放出されるヒスタミン等が、皮膚微小血管に作用して血管透過性を亢進し、膨疹を形成すると考えられている。皮膚マスト細胞・好塩基球の活性化機序として、一部の患者ではマスト細胞・好塩基球膜上の高親和性IgE受容体やIgE抗体に対する自己抗体が認められる。また、ストレスや感染症が増悪因子となる症例もあるが、慢性蕁麻疹の発症機序は依然不明である。近年、慢性蕁麻疹の病態に血液凝固系が関与することが報告されている。近年我々は、健常人に比べ、慢性蕁麻疹患者の末梢血単球に、外因系凝固反応の開始因子となる組織因子(tissue factor: TF)が高発現していることを発見した。また、in vitroで、ヒト血管内皮細胞を慢性蕁麻疹の増悪因子であるlipopolysaccaride (LPS)、ヒスタミン、vascular endothelial grows factor (VEGF)、IL-33、tumor necrosis factor α (TNFα) 等を組み合わせて刺激すると、それぞれの単独刺激に比べ、相乗的にTF発現が上昇することを見出した。また、これらのTF発現細胞は、TFを発現するマイクロパーティクル(MP)を放出することも発見した。さらに、血管内皮細胞・単球上に高発現したTFは、局所的に外因系凝固反応を駆動し、活性化凝固因子(Xa、IIa等)を産生すること、また、Xa、IIaは、血管内皮細胞上のprotease-activated receptor-1 (PAR-1)を介して、血管透過性を亢進することを突き止めた。Xa、IIaは補体成分であるC5からC5aを産生し、C5aが直接好塩基球、マスト細胞のC5a受容体を介して活性化することを見出した。
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