研究課題
アトピー性皮膚炎(AD)の主症状である難治性の強い痒みは中枢性感作が一因とされ,その中心的な役割を果たしているのが脳内報酬系である.AD患者では皮膚炎に起因する脳内報酬系の異常が,掻破への止まらない欲求となり,皮膚炎増悪の悪循環に陥ると予想される。一方,AD病変部では,痒みの誘発や増強に関与するIL-4を中心としたType2炎症が生じているが,IL-4の脳に対する影響は不明である.重度の痒みに対する治療創薬のためには,脳における痒み過敏のメカニズム,中枢性感作の解明が不可欠である.本研究では,痒み刺激時の脳活動をMRIにより解明することを目的としている.昨年度までの研究結果から,慢性掻痒モデルマウスの皮膚炎が十分に誘導されていても脳への影響は不十分である可能性が示唆された.そのため本年度は,モデルマウスを用いて皮膚炎誘導条件の更なる検討を行った。①誘導期間および誘導物質を変化させることによる皮膚炎強度の違い,②顔面および体幹の異なる部位を誘導することによる神経支配領域の違い,③誘導面積を変化させることによる掻痒感の強度の違い,についてそれぞれMRI解析を実施した.その結果,広範囲かつ三叉神経支配領域部の皮膚炎誘導という条件下において,脳内(海馬周辺領域)での脳血液関門(BBB)破壊を示唆する像を得ることに成功した.また,BBB破壊にはモデルマウスの皮膚炎症状のみならず,行動面での顕著な症状も伴うことが示唆された.この結果は,実際の重症AD患者がうつ症状を高頻度に併発する知見にも合致する.以上のことから,慢性掻痒モデルマウスにおける脳内炎症とそれに伴うBBB破壊の可能性が強く示唆された.今後は,脳内炎症の実態についてより具体的に検証していく.
3: やや遅れている
実験モデルの同定に難渋しているため.
慢性掻痒モデルマウスの皮膚での炎症が脳にも影響を及ぼすための条件検討をさらに進めるため,今後は,モデルマウスの行動面の症状にも注視していく.同時に,脳内炎症の実態について詳細に検証を進める.脳内炎症の実態解明は,免疫組織化学的染色により脳内報酬系を中心とした痒みの脳伝達機構に重要な各主要脳部位の神経炎症を評価する予定である.
本年における資材の納入額が予想よりも高騰したため.
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件)
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