研究課題
本年度は表皮に特異的に発現する脂質代謝酵素群を欠損させた遺伝子改変マウスの表現型解析により、主に以下のような研究の進展があった。(1)5系統の先天性魚鱗癬モデルマウスの新生児皮膚における遺伝子発現プロファイルを比較したところ、Pnpla1欠損マウスなどの強い炎症応答を示す系統と、Sdr9c7欠損マウスなどの炎症をほとんど示さない系統があった。炎症応答を示す系統ではIL-17、IL-23などの乾癬関連の炎症性サイトカインや、ケモカイン、活性化ケラチノサイトマーカーなどの発現増加が共通に見られた。(2) 遅発性魚鱗癬の原因遺伝子として報告されたLIPNの機能解析を行うために、Lipn遺伝子欠損マウスを作製したが、皮膚の組織形態や経皮水分蒸散量には目立った異常は見られなかった。この酵素と相同性が非常に高い遺伝子群がゲノム近傍に9分子種存在するため、機能重複の可能性を想定してこれらの遺伝子群を単独もしくは複数同時に欠損させたマウスを作製したところ、その中の1系統が皮膚の異常や新生児致死を示した。(3) PLA2G4Eは、遺伝性角化症の魚鱗癬や炎症性角化症の乾癬において強く発現誘導されるホスホリパーゼA2の一つである。Pla2g4e欠損マウスにイミキモド誘発癬モデルを適用すると、野生型マウスよりも耳介が肥厚し、炎症細胞の浸潤や炎症性サイトカインの発現が増加したことから、PLA2G4Eの下流で抗炎症性脂質メディエーターが産生される可能性が想定された。リピドミクス解析の結果、PLA2G4Eは表皮におけるN-アシルホスファチジルエタノールアミンの産生に中心的な役割を担い、この脂質がさらに代謝されて生じるN-アシルエタノールアミンが抗炎症性脂質メディエーターとして機能することが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
遺伝子改変マウスをゲノム編集により作製し、皮膚バリア機能や遺伝子発現解析などを概ね予定通りに進めた。
今後は以下の点に特に重点的に取り組む。(1) 角層バリア機能に不可欠な結合型セラミドの化学構造とその形成に関わる代謝経路の解析(2) LIPN相同分子の酵素活性測定(3) アシルセラミド合成酵素であるPNPLA1と相互作用する分子の探索(4) 時期特異的に皮膚バリア機能を低下させることが可能な遺伝子改変マウスを用いて、皮膚疾患モデル適用時のバリア機能低下の影響評価
新型コロナによるサプライチェーンの遅延により、脂質分析に必要な試薬やカラムなどの研究に不可欠な一部の物品の納品時期が大きく遅れ、次年度分の購入となったため。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件) 備考 (2件)
FASEB J
巻: 36 ページ: e22301
10.1096/fj.202101958R
アレルギーの臨床
巻: 42 ページ: 61-65
https://www.igakuken.or.jp/biomembrane/Study.html
https://www.igakuken.or.jp/biomembrane/publication.html