研究課題/領域番号 |
21K08318
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
藤村 卓 東北大学, 大学病院, 講師 (50396496)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | メラノーマ / LL37 / 局所浸潤 / 血管新生形式 / MMP9 / VEGF-C |
研究実績の概要 |
当該年度はメラノーマにおける局所浸潤にLL37陽性浸潤細胞が関わるメカニズムを検証するために、ヒトメラノーマ・セルラインを用いて血管新生因子および炎症性因子をin vitroで検証する手技を確立した。具体的には、セルラインにおける定量的mRNA発現量の検証の至適時間の決定及び、タンパク産生における培養指摘時間の決定及びLL37の細胞刺激における至適濃度を当該年度に決定した。また、同時に血管新生因子とLL37 (マウスではCRAMP)との関連を生体内で明らかにするため、既存のB16F10メラノーマモデルを用いて、血管新生因子を網羅的に確認する手法及び腫瘍投与後の刺激時間の最適化をおこなった。これまでに他癌腫で知られていたLL37によるTh17誘導のメカニズムに加えて、さらにその上流のIL-23p19の産生をLL37がコントロールしていることが示唆された。注目すべきことにIL-23p19は腫瘍の血管新生・繊維化などの腫瘍の進行に貢献することが知られており、実際にIL-23p19の阻害が抗腫瘍効果につながることが知られている。これらLL37による多角的な血管新生因子の誘発のメカニズムを明らかにすることにより、これまでに悪性腫瘍の血管新生様式として知られている発芽的血管新生と重複的血管新生のメラノーマにおける役割を解明しつつある。さらに、これらの結果をこれまでに得てきた臨床データと合わせることにより、ヒトメラノーマ患者においても上記の仮説が正しいことを確認しつつある。臨床本研究の内容は2022年12月の国際学会(Japanese Society for Investigative Dermatology)で発表予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当該年度はメラノーマにおける局所浸潤にLL37陽性浸潤細胞が関わるメカニズムをヒトメラノーマ細胞であるA375細胞及びG361細胞を用いて血管新生因子および炎症性因子をin vitroで検証した。その結果、in vitroにおいて、LL37刺激を行うことにより各種メラノーマ細胞は、血管新生因子の中で、MMP9mRNA, p19mRNA (IL-23), 及びCXCL5mRNAを選択的に増加させた。一方、腫瘍環境を決定する因子である腫瘍随伴性マクロファージをin vitroで誘導し、LL37で刺激をしたところ、血管新生因子の中でMMP1mRNAとVEGF-CmRNAを増強することが明らかとなった。これらの結果は、LL37がメラノーマ腫瘍細胞側では重複的血管新生に、腫瘍随伴性マクロファージは発芽的血管新生に関与することが推測された。LL37は上記の代表的な血管新生形式の双方に関与することが本研究で明らかとなった。さらに、LL37(CRAMP)をマウスB16F10メラノーマに腫瘍内に投与したところ、MMPの中で、MMP1とMMP9のみ選択的に上昇することがin vivoで確認された。以上から、臨床メラノーマ検体で確認されていたメラノーマの病期進行に伴うLL37陽性細胞の増加は、メラノーマのTステージが予後に大きく影響することを示唆する所見となりえた。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度に明らかにした血管新生因子であるMMP9及びMMP1の実際のメラノーマ検体における発現形式とLL37の発現形式の関連性を既存の臨床検体100例を用いて明らかにする。また、LL37がメラノーマ腫瘍内の腫瘍随伴性マクロファージに取り込まれているか、蛍光免疫染色法を用いて明らかにする。さらに、mRNAレベルで確認されてきたMMPやIL-23、CXCL5などの各種培養システムにおいて蛋白産生レベルを検証する。加えて、MMP9のメラノーマ進行への関与を明らかにするため、血管内皮細胞3次元培養システムを用いて検証する。また、LL37のマクロファージ免疫調整因子への影響を検証するため、ヒト単球由来マクロファージを用いて炎症性ケモカインを中心に網羅的に検証する。さらに、マウス生体内およびセルラインで共に証明されたIL-23p19の役割を抗IL-23抗体の投与により明らかにする。以上を明らかにすることにより、当初臨床メラノーマ検体で確認されていたメラノーマの病期進行に伴うLL37陽性細胞の増加とメラノーマのTステージを介した腫瘍悪性度の探索システム及び、LL37をターゲットとしたメラノーマに対する新規治療法を確立する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度の研究がマウス及びマトリジェルを用いた三次元血管新生システムを用いるため、当初に予定した金額では不足することが予想されたため、2022年度の研究費を増加するため2021年度の研究費の未使用分を2022年度に当てることとした。また、新型コロナウイルス感染拡大により、当初予定していた国内学会参加がオンラインになったこと、加えて予定していた参加学会のほとんどに招待されたことから、参加費も含めて使用する必要がなくなったため、これらの旅費・参加費を全て消耗品代に補填した。
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