研究実績の概要 |
研究期間全般を通して、当初の目的であった悪性黒色腫の腫瘍浸潤におけるLL-37/ IL-17シグナルの解析を行った。その結果、腫瘍内のLL-37は悪性黒色腫の腫瘍深達度に比例して陽性細胞比率が増加すること、腫瘍内のLL-37陽性細胞は血管内皮細胞および腫瘍随伴性マクロファージ(Tumor associated macrophages: TAMs)であり、さらにメラノーマ細胞周囲にもLL-37が豊富であることから、これらの細胞にLL-37が作用しうることを明らかにした。それゆえ、腫瘍局所におけるLL-37の解析を初めに行い、LL-37が腫瘍細胞自体の血管新生因子(MMP-9, CXCL5, IL-23p19)の産生を増強することをマウスB17F10モデルで明らかにし、その後、腫瘍由来のこれらの因子がヒト真皮内皮細胞(HUDEC)によるtube formationを促進することを明らかにした。これら一連の結果は、欧州英文誌Cancersに2023年に掲載された。またこれまで我々はLL-37の腫瘍に与える影響はメラノーマのみでなく、他の皮膚悪性腫瘍にも影響を与えるのではないかという仮説を立てた。そこで、ヒトメラノーマおよびヒト有棘細胞癌・セルラインを用いてLL-37のIL-17シグナリングに与える影響をin vitroで検証したところ、後述のような結果を得ることができ、新たな研究への発展につながる貴重な現象を発見した。本研究全般を通して我々は、IL-17/ LL-37シグナルがメラノーマのみならず有棘細胞癌においても、腫瘍の進行に関与する因子であることを明らかにした。本研究成果によりIL-17/ LL-37が化膿性汗腺炎など疫学的に皮膚腫瘍の発症に関与する炎症性皮膚疾患の治療薬となっていることからも今後、周辺領域で新たな創薬につながるシグナルの開発が進むと考えられる。
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