研究課題
本研究では当初、以下の2点を主たる目的として検討することを予定していた:① extracellular matrix molecule 1 (ECM1) 依存的な皮膚癌の運動機能転換および免疫回避能と連動する癌微小環境の変化を解析し、ECM1の癌間質制御分子としての可能性を検討する、②ECM1の挙動と連動する細胞外基質を特定し、これらを標的とした新たな皮膚癌の治療応用への展開を模索すること。①の目的を達成するため、ECM1欠損マウスに植え付けた数種類の皮膚由来癌細胞の局所維持と進展機構を解析すべく、まずはコンベンショナルな手法でECM1遺伝子欠損マウスを作成することに挑戦した。しかしながら、予想されたごとく通常の遺伝子ノックアウト法では全例が胎生期に死亡することが確認された。これにより、ECM1が単なる疾患感受性遺伝子としてではなく、発生学的にも重要な分子であることが確証された。次の手段として、コンディショナルノックアウト法による臓器特異的なECM1欠損状態を作成する手法へ切り替えながら、実験を継続中である。ECM1遺伝子のノックアウトヒトモデルである皮膚粘膜ヒアリノーシスは、常染色体劣性遺伝形質であるが、胎児致死や生命予後には殆ど影響を及ぼさない遺伝病であることから、今回の結果はマウスのものとは異なる。ECM1がヒトとマウスの種間で異なる作用を持つ遺伝子である点は、非常にユニークな検討結果である。この視点から、さらにECM1の未知なる生体内機能を模索していく予定である。
3: やや遅れている
研究実績の概要に述べたように、コンベンショナルな手法でECM1遺伝子欠損マウスを作成することに挑戦したが、全例が胎生期に死亡することが確認された。これにより、ECM1が単なる疾患感受性遺伝子としてではなく、発生学的にも重要な分子であることが確証されたことは意義をもった知見である。上記の結果をもとに、Cre-LoxPシステムを用いたコンディショナルノックアウト法で、臓器特異的なECM1欠損状態を作成する手法へ切り替えながら、実験を継続している。すでに遺伝子導入用のベクターの構築は終了しており、導入に向けた精製・分離を行っている。また、これらと並行して、皮膚で担癌状態を作りやすい皮膚癌細胞株の選定にも着手し始めており、現在数種類の細胞株を入手して、様々な培養条件で細胞増殖能、分裂能に加え、皮膚へ投与した際の炎症誘導能やそれらにかかる時間を検討している。まだ報告できる結果はでていないが、皮膚のみでECM1の発現を調節することで、胎生致死を回避し、ECM1欠損発癌・担癌マウスの作成へつなげていく。
上記で作成し得たECM1遺伝子欠損マウスの皮膚へ、異なる数種の皮膚癌細胞株(有棘細胞癌株: HSCシリーズ, A431, DJM-1/黒色腫細胞株: HMU-1, A375, DEOC-1)を接種する。癌細胞の生着度や、局所での浸潤能や転移能に寄与するEMTやMATの運動機能転換レベルの違い(Rac、RhoA/ROCKシグナルの活性化などを含む)、さらには生存率などの変化を評価する。これらをもとに、ECM1分子に依存的な皮膚癌の挙動に関わる周辺微小間質の構成変化を検討していく。具体的には、上述したECM1欠損担癌マウスの皮膚と転移組織における間質エフェクター細胞(NK細胞、細胞障害性T細胞、腫瘍随伴マクロファージ、癌関連線維芽細胞など)の数的な変化、組織内の分布を検討する.Laser microdissection法で切り出した癌微小環境ユニットの蛋白変化を網羅的にプロテオーム解析し、癌の生着や転移イベントに感受性の高い間質分子を同定することを予定している。
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