研究課題/領域番号 |
21K08333
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
堀内 大 埼玉医科大学, 医学部, 講師 (30608906)
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研究分担者 |
村上 孝 埼玉医科大学, 医学部, 教授 (00326852)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 悪性黒色腫 / 抗腫瘍免疫応答 |
研究実績の概要 |
悪性黒色腫治療は代表的な難治性皮膚腫瘍であり、その難治性の最大の要因として嫌気的な腫瘍内環境がある。嫌気的な微小環境では、化学療法剤も放射線も十分な殺細胞効果は期待できない。しかし、嫌気性細菌は嫌気環境下でも殺細胞効果を発揮できる。本研究は通性嫌気性細菌であるサルモネラの嫌気部位集積性と感染免疫誘導を利用して、悪性黒色腫嫌気部位でのサルモネラ感染腫瘍細胞に対する免疫応答から、腫瘍細胞不均一性に基づく広スペクトルな抗腫瘍免疫の惹起を目指す。 我々はすでにin vitroにおいてほぼ全ての腫瘍細胞がサルモネラに感染する条件を決定し、その条件では感染細胞は特異な空胞変性を呈することを見出している。 2021年度は、感染腫瘍細胞をマウスに接種することで、悪性黒色腫細胞を傷害可能なキラーTリンパ球が誘導されることを、フローサイトメトリー法を利用したリンパ球細胞傷害試験により確認した。肺がん細胞やリンパ腫細胞を標的細胞として、前述のリンパ球細胞傷害活性を行うと悪性黒色腫細胞を標的とした際と比べて細胞傷害活性は有意に低く、サルモネラ感染悪性黒色腫細胞の接種により、悪性黒色腫特異的な免疫応答が誘導されていることが示唆された。そこで、悪性黒色腫由来抗原に対する免疫応答を確認するため、悪性黒色腫抗原GP100に特異的なT細胞レセプターを発現する遺伝子改変マウスにサルモネラ感染腫瘍細胞を接種したところ、マウス生体内で悪性黒色腫関連抗原特異的リンパ球の増殖が誘導されることが確認できた。 以上より、生体内にサルモネラ感染腫瘍細胞が存在することにより、腫瘍抗原特異的免疫応答が惹起されることが明らかとなった。 また、in vitroでの感染腫瘍細胞の長期観察により、感染腫瘍細胞全てが細胞死に陥るのではなく、一部の変性細胞は特徴的な細胞形態の変化を伴いつつ、細胞周期をG1期に停止した状態で残存することがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
サルモネラ感染悪性黒色腫細胞のマウス接種により、悪性黒色腫細胞を標的としたリンパ球の細胞傷害活性のみならず、悪性黒色腫抗原特異的リンパ球の生体内増殖についても確認ができた。 このことは細菌の腫瘍細胞感染を起点として悪性黒色腫細胞特異的免疫反応が惹起されることを示している。 上記の結果は、本研究の目的達成に重要な成果であることから、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
サルモネラ感染細胞をマウス生体に接種することでリンパ球応答が確認できた悪性黒色腫抗原は、現時点ではGP100のみである。今後はGP100以外の腫瘍細胞由来抗原や、細胞内に感染したサルモネラ由来抗原にリンパ球が反応しているのかどうか検討を進める。具体的にはサルモネラ感染腫瘍細胞を接種したマウス血清中の腫瘍細胞反応抗体を利用したプロテオーム解析で抗原タンパクを特定し、特定タンパクのアミノ酸配列をin slico解析してT細胞エピトープを予測、当該エピトープペプチドを人工合成し、それを用いてT細胞反応を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の影響により、日本癌学会は開催地に赴いての参加はできず、旅費を使用しなかったため、次年度使用額が生じた。生じた差額は主にプラスチック製品などの物品費に当てる予定である。
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