研究課題/領域番号 |
21K08338
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
川崎 洋 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, 上級研究員 (70445344)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | アトピー性皮膚炎 / スキンケア / 皮膚バリア |
研究実績の概要 |
私たちは、アトピー性皮膚炎患者の皮膚性状・バリア状態の多様性を明らかにし、それに関連する皮膚炎病態への細菌叢の関与の違いを見出した。本研究では、ヒト臨床知見をマウスモデルにリバーストランスレーションし、皮膚性状の違いが皮膚細菌叢に与える影響、スキンケアの実施により皮膚細菌叢と皮膚炎形成にどのような変化が生じるのかを、アトピー性皮膚炎患者および複数マウスモデルのDeep phenotypeデータの統合解析により明らかにする。 これまでに、Tmem79KOマウスやMC903塗布マウスモデルの皮膚性状と皮膚細菌叢の関連解析が実施された。その結果、両モデル共に皮膚性状や皮膚炎発症と皮膚細菌叢間のダイナミクスが明らかになった。一方、私たちは新たなスキンケア手法として、皮膚常在菌や常在菌が分泌する因子を使用する可能性も含めて検討を行った。ヒト臨床知見から見出された、皮膚の恒常性維持に重要と思われる皮膚細菌種やその分泌物を、上述のマウスモデルに塗布することで、これらの皮膚状態や炎症抑制への効果を検証した。これまでの結果から、従来の保湿・保護剤を用いたスキンケアだけでなく、皮膚常在細菌によるスキンケアの効果についても確認されつつある。今後は、こうした研究から得られた時系列データとヒト臨床データとの統合解析により、どういう対象者にどのようなスキンケアを選択実施すべきかという検討を加え、精密スキンケア手法の確立に向けた検討を進めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、1年目に使用するマウスモデルの選定と皮膚性状や皮膚細菌叢のカタログ化を、1から2年目でスキンケアの実施による皮膚性状や皮膚細菌叢と症状推移の関連解析を進める研究計画になっている。これまでに、Tmem79KOマウスやMC903塗布マウスモデルの皮膚性状と皮膚細菌叢の関連解析が実施されている。その結果、両モデル共に皮膚性状や皮膚炎発症と皮膚細菌叢間のダイナミクスが明らかになった。スキンケアの方法としては、保湿・保護剤の外用が一般的であるが、私たちはヒトからの臨床研究知見によりBleach bathや皮膚細菌叢を標的とした手法が皮膚バリアや炎症の生成抑制にはたらく可能性を見出した。そこで、本研究では精密スキンケア手法として、保湿・保護剤の使用に加えて、皮膚常在菌や常在菌が分泌する因子を使用する可能性も含めて検討することとした。今年度はこれらのスキンケア手法を上述のマウスモデルに実施し、これらの皮膚状態や炎症抑制への効果を検証した。これまでの結果から、保湿・保護剤、および常在細菌によるスキンケア効果が認められている。今後は、こうした研究から得られた時系列データとヒト臨床データとの統合解析により、どういう対象者にどのようなスキンケアを実践すべきかの検討を実施していく。そして、これらの検討結果を動物モデルにより確認検証を実施する予定である。同解析を効率よく実施するための、ヒト、マウス両面からの解析実施用データ収集は今後も適宜収集される予定である。また、本研究申請時に比べて取得するパラメータ数・情報量は拡張、増加しており、解析精度の向上が期待される。 以上の内容を考慮して、本年度までの研究進捗に関しては、おおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題をさらに推進していくために、これまでに取得したデータの解析と新たなサンプル・データ収集を並行して進め解析研究の効率化を図る。解析結果を新たな試験デザインや収集するデータの内容の吟味に生かして、サンプル・データ収集の効率化と解析結果の意義の最大化を目指していく予定である。さらに、申請者が有する研究ネットワークを活用し、各動物モデル知見やヒトデータ解析知見を研究計画に取り入れ修正を図るとともに、二次利用可能なデータに関してはそれを使用することで、研究の推進につなげる。 データ解析面では、技術面での課題があるが、計画書に記載している理化学研究所の川上英良 チームリーダーや他のデータサイエンティストに師事したり解析に関する共同研究を推進したりすることで、データ解析の精度の向上や研究の推進につなげていく。 さらに、研究最終年度に向けて、過去二年間のノウハウや研究動向を反映し、当初の研究計画からの変更や修正を恐れずに適宜最適化を検討していくことで、より良い研究成果の創出につなげていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入を予定していた試薬の一部が、社会・政治状況等の影響を受け想定以上に納品に時間がかかることがわかった。そのため、同試薬を使用する研究を代替研究として実施することとして、研究内容や計画を微修正して研究を実施した。 翌年度分として請求した助成金に関しては、次年度に使用する予定のため、資金使用面における金額レベルでの変更は生じず、研究全体での実施計画に関しても変更は生じない。最終年度ということで、研究解析関連試薬や機器の使用に繰り越し分の研究費を該当させる予定で考えている。
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