アトピー性皮膚炎では皮膚バリア状態、皮膚常在菌叢を保つスキンケアが治療の柱の一つとして認知されているが、現在のスキンケアは保湿・保護剤の画一的な塗布により実施されることが多い。本研究では、アトピー性皮膚炎患者より観察される皮膚性状・バリア状態の多様性の知見をマウスモデルにリバーストランスレーションし、皮膚性状の違いと皮膚細菌叢との関連、スキンケアの実施により皮膚細菌叢と皮膚炎形成にどのような変化が生じるのかを、アトピー性皮膚炎患者およびマウスモデルのDeep phenotypeデータの統合解析により明らかにすることを目指した。 アトピー性皮膚炎患者の皮膚性状・バリアパラメータの解析から、アトピー性皮膚炎の皮膚バリア状態は3つのクラスターに大別されることがわかった。皮膚細菌叢データとの関連解析により、クラスターごとの皮膚細菌叢パターンの特徴が明らかになった。次に、これらのヒト知見とSpadeマウス、Tmem79KOマウスやMC903塗布モデル等のアトピー性皮膚炎様の皮膚炎を発症する動物モデルでの観察結果と統合しモデル選定を実施した。突合された動物モデルの一つ、MC903塗布モデルは炎症初期は皮膚バリア障害は軽度である一方、黄色ブドウ球菌が優勢を示すなど、皮膚常在菌を標的としたスキンケア手法のモデルとして有用であることが示唆された。 私たちは、新しいスキンケア手法としてBleach bath療法(0.005%次亜塩素酸Na含有浴)で治療されたアトピー性皮膚炎患者の皮膚細菌叢から同定した常在菌を活用した治療を考案した。これらをMC903塗布マウスモデルを活用した系で検証したところ、顕著な炎症抑制効果を認めた。これらの結果は、従来の保湿・保護剤を用いたスキンケアだけでなく、皮膚常在細菌によるスキンケアという新たな手法の概念実証につながる。
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