研究課題
本年度も引き続き、カポジ肉腫ウイルスサイクリン遺伝子導入マウスを用いた皮膚線維化に関する研究を行った。昨年度までの実験を繰り返しておこなったところ、ブレオマイシンを4週間毎日皮下注射して皮膚硬化を起こす系では、マウス間の個体差が大きすぎてリンパ浮腫によって線維化が更新するのか減弱するのか一定の傾向が得られなかった。マウスのオスとメスでは前者のほうが皮膚でのコラーゲン量が多く、真皮も厚いことが分かっていたが、実験を繰り返すとメスのほうが安定した結果を得られることが分かったので、本年度はメスのナイーブなマウスを用いて実験を行った。皮膚のコラーゲン量を定量する実験、背部皮膚の病理における真皮の厚さの計測、ともにカポジ肉腫ウイルスサイクリン遺伝子導入マウスのほうが線維化が強いという結果が得られた。これはリンパ浮腫があるほうが皮膚の線維化が促進されることを意味しており、人間の生体における反応に近いと考えた。そこでreal-time RT-PCRによる検討をさらに行ったが、コラーゲン1a1、1a2、3a1のmRNA発現に有意な差は認められなかった。またCTGF、PDGFの発現はカポジ肉腫ウイルスサイクリン遺伝子導入マウスのほうが高い傾向があったが、有意差はなかった。新生児の皮膚から線維芽細胞を初代培養したところ、リンパ浮腫マウスでは、CTGF、PDGF、TGF-βの発現が正常マウスの皮膚由来の線維芽細胞より高かった。さらにトータルRNAシーケンシング解析を行い、リンパ浮腫マウスで2倍以上発現が上昇していた遺伝子は54遺伝子、1/2以上発現が低下していた遺伝子は128遺伝子あった。これらの中でサイトカイン、細胞表面分子、転写因子に注目し、マウス皮膚において発現を再確認する予定である。
2: おおむね順調に進展している
リンパ浮腫が皮膚硬化に与える影響を研究しており、これまではリンパ浮腫が線維芽化を抑制しているようなデータであったが、実験試行回数を増やすことにより、リンパ浮腫が皮膚の線維化を亢進しているということが判明した。その要因を解析するにあたって生体ではばらつきが大きかったが、新生児マウス皮膚由来の線維芽細胞に着目することにより、CTGF、PDGFなどの線維化を促進するサイトカインの発現が上昇しているデータが得られた。RNAシーケンシング解析の結果が返ってきており、有名なサイトカインや細胞表面分子、転写因子の発現がリンパ浮腫マウス由来の線維芽細胞で動いており、今後の解析のターゲットとする予定である。リンパ浮腫の線維化に対する影響が判明しつつあり、おおむね順調といえる。
培養線維芽細胞を用いたRNAシーケンシング解析で得られた候補遺伝子について、まずは線維芽細胞から抽出したRNAを用いてreal-time RT-PCRで結果の再現性を確認する。次に実際のマウスの背部皮膚を用いて、同様の解析を行う。リンパ浮腫の影響で発現が動いていることが確信できた分子について、野生型マウスの尾を外科的に傷つけて起こす実験的リンパ浮腫の系を用い、real-time RT-PCRにて再確認する。また、リンパ浮腫によって線維化を起こした患者の下腿の組織を用い、その分子の発現を検討する。
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