研究課題
東北大学病院血液内科において2021年度実施した初回臍帯血移植10例の移植後の骨髄検体を採取し単核球分離の上、凍結保存を行なった。この内、3例はドナーレシピエント間のKiller-cell immunoglobulin-like receptor(KIR)リガンド不適合を伴う移植であり、日本人ではKIRリガンド不適合を満たす臍帯血移植の頻度が少ないことから、貴重な検体となり得る。上記検体と東北大学病院血液内科で凍結保存を行なっていた骨髄検体24例を用い、磁気ビーズ法でNK細胞を分離後、nCounter Human Immunology V2 Panelにて移植後3ヶ月目骨髄NK細胞の遺伝子発現の検討を行った。その結果、KIRリガンド不適合の有(n=9)の例では、無(n=15)に比べ活性化型KIRの遺伝子発現が増加していた(fold change 2.15)。さらに、KIRリガンド不適合以外の移植条件と移植後NK細胞遺伝子発現変化の関連を検討したところ、移植片対宿主病(GVHD)予防法(methotrexate[MTX] vs mycophenolate mofetil)により複数の遺伝子発現が変化していることを見出した(14遺伝子において2 fold change以上の変化)。この所見は、KIRリガンド不適合の影響を検討する際はGVHD予防法の影響を考慮する必要があることを示している。この結果を元GVHD予防法と、KIRリガンド不適合による臍帯血移植後NK細胞遺伝子発現変化が、実際の治療成績に与える影響を検討するため、レジストリーデータを用いて、臍帯血移植におけるKIRリガンド不適合の影響をGVHD予防法ごとに比較した。その結果、KIRリガンド不適合はMTXを含むGVHD予防法を用いた臍帯血移植において急性骨髄性白血病再発率の低下、全生存率の改善に働くことを論文報告した。
3: やや遅れている
進捗がやや遅れている理由として、骨髄検体の細胞数が少ないこと、KIRリガンド不適合を有する臍帯血移植数の問題が挙げられる。フローサイトメトリーにて臍帯血移植後1ヶ月、3ヶ月目のNK細胞の表面マーカー解析を実施することを検討しているが、当初の検討で推定していたより細胞数が少ない例が多く、十分な解析が困難であった。新規のKIRリガンド不適合移植例の数が少なく、凍結保存検体を用いざるを得ないこと、採取された骨髄液量が約1-2mLと少ないものが多かったことが原因として考えられる。また、NK細胞発現遺伝子の比較に関して、微量検体からnCounterの解析に適した純度の高いRNAの抽出に難渋した。検討の結果、現在はカラムキットを用いることにより問題なく抽出が可能となっている。さらに臍帯血NK細胞と間葉系幹細胞の共培養実験では、昨年より臍帯血の入手が困難になったことも影響した。また間葉系幹細胞の樹立では、日本人にHLA-C2 group homozygousが非常に少なく樹立困難であった。
フローサイトメトリーによる移植後NK細胞の表面形質に関しては、未凍結の検体を用いて解析を行う事を予定している。未凍結の場合、前向きに症例集積が必要で、KIRリガンド不適合例が少数に留まり十分解析できない可能性も有るが、残り2年間で4-5例程度は集積できると推定される。同時に、KIRリガンド不適合例が予想より少ない場合も想定し、凍結検体によるNK細胞遺伝子発現解析は症例数を増やしていく予定である。臍帯血NK細胞の共培養実験に関しては、臍帯血入手の予定が立たない場合、末梢血NK細胞を用いて同様の共培養実験を進める。
物品納品の遅延によって生じたものである。令和4年度請求額と合わせて、物品の納品に必要な経費として使用する予定である。
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Bone Marrow Transplant
巻: 56 ページ: 3059-3067
10.1038/s41409-021-01469-6.