研究課題/領域番号 |
21K08364
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
長谷川 敦史 東北大学, 医学系研究科, 助教 (80747460)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | GATA2 |
研究実績の概要 |
GATA2は造血幹細胞の産生と機能維持に必須の転写因子である。特定系列の免疫細胞産生異常を示すDCML欠損症より、GATA2遺伝子変異が多数見つかっており、これまで不明な点が多かった血球運命決定・分化制御におけるGATA2の役割が強く示唆されている。本研究ではDCML欠損症モデルマウス(Gata2R398W/+マウス)を用い、GATA2変異により惹起される、造血幹前駆細胞における分化運命の偏向と、責任遺伝子の転写制御異常の解析を目的とした。 GATA2の発現量は血球分化の過程で大きく変動することがわかり、詳細な分化能解析に先駆けて、解析対象分画の選定が重要であると判断された。疾患患者およびモデルマウスにおいて減少する血球系列の前駆細胞の中で、GATA2の発現が認められたリンパ球・骨髄球共通前駆細胞(Lymphoid-primed multipotent progenitor:LMPPおよびLymphoid progenitor:LP)を分取し、RNA-Seq解析より、遺伝子発現の観点から細胞機能異常の探索を行った。特にGata2R398W/+マウスのLMPPでは免疫細胞分化・免疫刺激応答に関わる遺伝子の発現異常が顕著であり、将来の分化運命決定および成熟過程に影響を与える細胞機能欠損が示唆された。 この結果は、これまで詳細な報告がなかった造血幹前駆細胞において、GATA2R398W変異に起因する遺伝子発現プロファイル変化を明らかにする成果である。また本成果は、今後、血球産生異常の分化系列特異性を直接的に検証するための分化運命偏向解析において、解析対象とする細胞集団としてLMPPを含む分画を用いることが、良好な結果を得るための指針となることを示している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分化偏向解析に先駆けて、解析対象とする細胞集団を抽出するために、DCML欠損症モデルマウスにおいて細胞機能異常が最も顕著な血球分化段階の同定を試みた。Gata2の発現制御領域を用いたGFPレポータートランスジェニックマウスにおいて、リンパ球・骨髄球の共通前駆細胞(LMPPおよびLP)でのGATA2の明確な発現と、特にB細胞系列の成熟過程でのGATA2発現の消失が見出された。このことから、リンパ球および骨髄球系を中心とした産生異常につながり、GATA2変異の影響をより強く受ける分画としてLMPPおよびLPを標的とした。 LMPP分画、LP分画を野生型マウスおよびGata2R398W/+マウスの骨髄から分取し、次世代シークエンサーを用いたRNA-Seq解析を行った。遺伝子発現のパターンよりそれぞれの分画は明確に区別することができ、各分画におけるマウス間での発現変動遺伝子のエンリッチメント解析より、LMPPでは免疫細胞分化・免疫刺激応答に関わる遺伝子が、LPではシグナル伝達等の細胞機能制御に関わる遺伝子が強く濃縮された。このことから、変異GATA2の発現による分化制御異常はLMPPにおいてより顕著であることが考えられ、その先の系列特異的な分化方向の制御および分化の進行が障害されていることが示唆された。特にLMPPでは免疫刺激応答に関係する複数の遺伝子、およびその発現を制御する転写因子が抽出され、免疫細胞分化を制御する刺激応答機構の異常が起こっていることが示唆される結果が得られた。
|
今後の研究の推進方策 |
骨髄造血幹前駆細胞の分化運命がGATA2変異によりどのように偏向されるかを解析する。Gata2R398W/+マウスおよび対照群として野生型マウスの骨髄より、Lineageマーカー陰性、ckit陽性、Sca1陽性分画(LSK分画)として定義される造血幹前駆細胞について、内部の各分画の詳細な分布比較を行う。LSK分画には、これまでの解析で分化制御関連遺伝子の顕著な発現変化が認められたLMPPと、赤血球や顆粒球系列への分化傾向を持つ前駆細胞、および造血幹細胞が含まれることから、分化運命の変化を検出できると見込まれる。 セルソーターにより単離したLSK分画細胞からSingle-Cell RNAライブラリーを作製し、次世代シークエンサーによる網羅的遺伝子発現解析を行う。個々の細胞における遺伝子発現パターンの差異と、各血球系列を特徴づけるマーカー遺伝子の発現状況から、造血幹前駆細胞集団を分化運命が異なる複数の副集団に細分化する。Gata2R398W/+マウスと野生型マウス間での副集団分布の偏向を情報学的に検出し、割合が変化した副集団の分化運命と、特徴的な発現異常を示す遺伝子を同定する。また遺伝子発現量の連続性に基づく擬似時間解析より、分化の進行過程での当該副集団の位置づけを明らかにする。さらに競合的造血幹細胞移植より、副集団分布の変化と血球分化バランスの相関を解析し、当該副集団に変異GATA2の作用点があることを実証する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当該年度中の実験に使用する物品について、研究開始時点で用意していたものと新規購入品とを合わせることで十分な量を確保することができた。また研究の進捗具合と試薬等の使用期限を考慮すると、大容量品やストックを購入することができなかったため、繰越が発生した。 次年度使用額分の使途として、フローサイトメトリー解析に用いる試薬、抗体類の購入費用とする。遺伝子発現解析・データ処理に関わる試薬物品類の購入費用とする。所属機関の共用機器使用料金の支払い費用とする。
|