エンハンサーはプロモーター領域と相互作用し、標的遺伝子の発現を制御することから、クロマチンループを含めたゲノムの3次元(3D)構造制御は、細胞機能にとって非常に重要であると考えられる。一方、癌細胞ではクロマチン制御因子の機能異常が指摘され、正常とは異なる3Dゲノム構造を形成しているが、その意義や分子機構の全容は未解明である。本研究では、独自に作製したリンパ腫発生モデルマウス(Id2/Id3欠損(dKO))を活用し、3Dゲノム構造の変換が癌特有の遺伝子発現プログラムに寄与するのかこの特有の3Dゲノム構造の形成・維持の分子メカニズムは何かを解明することを目的とした。 これまでの研究成果で、がん抑制遺伝子Cdkn2aの発現が活性化T細胞では高いがリンパ腫細胞では著しく抑制され、エンハンサー領域のゲノム構造が変化していることが判明したことから、Cdkn2aの発現抑制がリンパ腫発生に寄与するか検討するためにId2/Id3/Cdkn2a遺伝子欠損(tKO))マウスを作成し、解析を行った。その結果、tKOマウスは、dKOマウスおよびCdkn2a遺伝子単独欠損マウスよりも早期に致死的なリンパ腫を発症した。以上のことから、リンパ腫発症マウスモデルにおいて、前がん状態からがんへと進展する過程で3Dゲノム構造が変容し、Cdkn2aの発現抑制が活性化T細胞からリンパ腫への進展に寄与することが示唆された。さらに、癌細胞でのみ高い発現を示すCTCFとコヒーシンの関連遺伝子を見出し、その遺伝子改変マウスを作製した。現在もまだそのマウスを解析中であり、癌特有のゲノム構造の形成・維持の分子機構の解明を試みている。
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