研究課題
エピジェネティクス制御の破綻が造血器腫瘍や自己免疫疾患の発症・維持に重要な役割を果たしている。骨髄異形成症候群 (myelodysplastic syndrome, MDS) は、造血細胞の異形成、無効造血、白血病への移行を特徴とする難治性造血器疾患である。MDSには自己免疫疾患が10~30%と高頻度に合併することが古くから知られているが、その理由は不明である。申請者はヒストン脱メチル化酵素UTX (ubiquitously transcribed tetratricopeptide repeat, X chromosome) 欠失マウスを作製したところ、一部のマウスにMDS様の病態に加えて自己免疫疾患の病像を呈することを見出した。さらに、UTX欠失マウスはCD4+T細胞の頻度が著しく減少していることを確認しており、免疫抑制機構の破綻が示唆された。本研究はMDSと自己免疫疾患の合併疾患モデルであるUTX欠失マウスにみられる免疫異常の詳細な解析を通じて、両疾患に存在する共通の分子メカニズムによる可能性に着目し、これらを明らかにすることで、病態理解を深め、新規治療法の開発につながる研究基盤を構築することを目的とする。本年度は自己免疫疾患におけるUTXの役割を解明する目的で、自己免疫疾患誘導マウスモデルの作製を試み、今後の解析に有用な新しい実験系を確立することができた。
2: おおむね順調に進展している
今回、自己免疫疾患におけるUTXの役割を解明する目的で、マウス自己免疫疾患誘導モデルとして免疫不全マウスに,naive T細胞であるCD4+CD45RBhigh T細胞を移入することにより大腸炎を発症させるマウス大腸炎誘発モデルを用いて、正常およびUTX欠失マウス由来CD4+CD45RBhigh T細胞を移入したところ、両者に著明な腸管肥厚をともなう腸炎の形態を示す一方、体重減少の程度に差異を確認することができたとともに、解析を進めるために有用な新しい実験系を確立することができた。現在、この実験系から得られたサンプルを用いた次世代シークエンサーによる網羅的遺伝子発現プロファイリング解析の準備を進めている。
今回確立したマウス自己免疫疾患誘導モデルを用いて、大腸炎を発症した腸局所や腸間膜リンパ節由来のCD4+T細胞のFlow cytometry解析によりTh1, Th2, Th17, Tregのサブセットに差異はないかを確認する。さらにRNA-seq による網羅的遺伝子発現解析を行い、UTX の欠失によって変動する遺伝子を同定したいと考えている。また、GSEA(Gene Set Enrichment Analysis)を用いて、活性化・不活化した pathway およびその制御に関与する因子を明らかにしていきたいと考えている。
今年度はマウス自己免疫疾患誘導モデルという新しい実験系の確立に時間がかかったため、当初、最初に計画していたRNA-seq による網羅的遺伝子発現解析を後にすることにした。今年度後半にRNA-seqの受託を試みたが、コロナ禍の影響で受託が遅延しており、結果が出るのが年度末をまたがってしまうことから諦め、次年度に行うことにしたために予定していた使用額にはならなかった。
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Blood
巻: 137 ページ: 908~922
10.1182/blood.2019001044