研究課題/領域番号 |
21K08383
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研究機関 | 国立研究開発法人国立国際医療研究センター |
研究代表者 |
森川 隆之 国立研究開発法人国立国際医療研究センター, その他部局等, 研究員 (80465012)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 造血幹細胞 / 酸素 |
研究実績の概要 |
本研究は生理的低酸素とされる骨髄において、どのように造血機能の維持に必要な酸素レベルが保たれているかを明らかにすることを目的とし、マウス骨髄の酸素の生体イメージングの技術を開発することでそのメカニズムの解明を目指す。初年度は骨髄の酸素分布の実態を捉えるシステムの構築し、これを用いた解析を行った。まず細胞膜透過性りん光プローブ (BTPDM1) を酸素センサーとして選択し、これを静脈内投与した麻酔下のマウスの頭蓋骨骨髄の酸素分圧を生体イメージングによって解析を行うことのできる多光子励起りん光寿命イメージング顕微鏡(PLIM) システムの構築に取り組んだ。システムは主に多光子レーザー顕微鏡部分とPLIM部分で構成され、4チャネルの蛍光画像とPLIM画像を同一視野でライブイメージングできるようにカスタムメイドで構築した。励起されたりん光プローブが発するりん光は周囲の酸素分子と衝突により消光するため、励起から消光までの時間は酸素濃度依存性である。このりん光寿命を顕微鏡画像のピクセル単位でマッピングすることで酸素濃度の高低を示す画像を得ることを可能とした。酸素分圧の定量イメージングのための検量線は、BTPDM1を取り込ませた骨髄の初代培養細胞の培地中の酸素濃度をモニタリングしながら窒素バブリングによって変化させたときのりん光寿命の測定値と酸素濃度の相関をとることでこれを得ることに成功した。得られた骨髄の酸素分圧イメージに蛍光画像から得られる骨髄のHSC, 細動脈、類洞血管、骨といった細胞及び組織画像を組み込む画像処理により、骨髄内の細胞分布や組織構造の上に酸素濃度をマッピングした画像を出力し解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
造血幹細胞 (HSC) の可視化にはHSCに特異的に発現する遺伝子Evi1をレポーターとして緑色蛍光蛋白質GFPを発現させたEvi1-IRES-GFPマウスを用いることでこれを可能とした。細動脈は血管系では細動脈に優位に発現の見られるSca-1に対する蛍光標識抗体を、静脈系である類洞血管は類洞の内皮細胞特異的に取り込まれるacetyl low density lipoprotein (AcLDL) を蛍光標識して静脈内投与することでそれぞれ可視化した。骨組織は骨に含まれるコラーゲンを多光子励起することで得られるsecond harmonic generationのシグナルを捉えることでこれを可視化した。さらにHSCの幹細胞性を維持に重要な役割をする液性因子産生細胞である間葉系幹細胞 (MSC) に蛍光蛋白質を発現させたCxcl12-DsRedマウスを用いた。このようにニッチと称されるHSCを取り巻く血管、骨、MSCなどで構成される微小環境の生体イメージングが可能となり、目標である定常状態の造血幹細胞ニッチの酸素環境の解析において進捗が見られた。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に得られた骨髄の酸素濃度に関する知見を踏まえて、骨髄酸素環境の調節機構の解明を目指す。先行研究の結果から骨髄の動脈には血管の拡張収縮を担う血管平滑筋が付随しており、その血管内皮細胞にはeNOSが強く発現していることが示唆されている。この骨髄のNOSから産生されていることが予想されるNOが恒常的に骨髄の動脈を拡張させているかを探るため、NOS阻害剤L-NAMEを経頭蓋骨薬剤投与法を用いて骨髄局所に投与したときの動脈の血管径の変化を多光子レーザー蛍光顕微鏡で捉える。NO産生阻害により動脈径の減少が見られた場合、L-NAMEに加えてNOドナーのニトロプルシドを投与し骨髄動脈径の回復が見られるか確認する。また、この時動脈の下流である類洞血管の血流量の変化を類洞血管径と赤血球速度から算出する。さらにeNOS遺伝子欠損 (eNOS KO) マウス (飼育・繁殖中) の動脈径、類洞血管血流量を野生型マウスと比較することで、eNOSから産生されるNOが骨髄の血流を保つことを示す証左を得ることを目標として今後の研究を推進する。
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