初年度、次年度に得られたデータから骨髄では血管内皮型一酸化窒素産生酵素 (eNOS) が産生する血管拡張因子である一酸化窒素 (NO) が血流を制御することで、生理的酸素環境が保たれていることが示唆された。これらの知見を踏まえ最終年度ではeNOSシグナリング経路による骨髄酸素レベルの制御機構の造血幹細胞 (HSC) の遊走における役割を明らかにすることを目標とした。まず麻酔下のマウス骨髄内でのHSCの挙動をリアルタイムで可視化するため、多光子レーザー顕微鏡を用いた生体イメージングのシステムにより、頭蓋骨骨髄で蛍光標識されたHSCの挙動を3次元でトラッキング可能な実験系を構築した。この実験系を用いてNOによる酸素環境維持におけるHSCの骨髄内動態に及ぼす影響を精査するため、NO産生阻害剤L-NAME投与時のHSCの挙動を精査したところ、コントロール群と比較してL-NAME投与群ではHSCの速度、移動距離ともに半減した。またこのL-NAME投与によるHSCの挙動の低下は、100%酸素吸入によりコントロール群と同レベルまで回復した。さらに酸素濃度低下によるHSCの細胞運動能の変化を検証するため、in vitroでのトラッキングアッセイを行った。HSCをセルソーターで分取後、ラミニンコート96 wellプレートに播種し、酸素分圧可変チャンバーを実装した共焦点レーザー蛍光顕微鏡で培養中酸素分圧が高い環境と低い環境とでHSCの挙動を追ったところ、HSCの平均速度は1%から3%の酸素濃度において酸素濃度依存的に変化した。これらの結果からHSCの骨髄における遊走能はNOがもたらす生理的酸素環境によって保たれている可能性が示唆された。
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