研究課題/領域番号 |
21K08388
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
鈴木 伸明 名古屋大学, 医学部附属病院, 講師 (70637686)
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研究分担者 |
高橋 伸典 愛知医科大学, 医学部, 教授 (20570196)
田村 彰吾 北海道大学, 保健科学研究院, 准教授 (60722626)
鈴木 敦夫 名古屋大学, 医学部附属病院, 主任臨床検査技師 (80835398)
寺部 健哉 名古屋大学, 医学部附属病院, 病院助教 (10816870)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 血友病 / 関節症 / 関節エコー / 凝固因子 / 合成基質法 / 凝固一段法 / トロンビン生成試験 |
研究実績の概要 |
血友病で欠損する凝固因子の活性測定法には凝固一段法(one stage assay:OSA)と合成基質法(chromogenic substrate assay:CSA)の二つの測定法があるが、測定法の違いにより値が大きく乖離する症例が一定数存在する。これらの症例では関節内出血の症状はなくとも関節症が進行する。あるいは、活性値から予測される以上に出血頻度が高いといった症例経験から以下の3つのアームからなる研究を実施し、サイレントに進行する血友病性関節症の発症メカニズムと2つの活性測定法の持つ意味について追及している。 ①患者血漿を用いた血液凝固アッセイによる止血機能解析:OSAやCSAの測定条件を様々に変化させることにより、各バリアントにおけるFVIIIやFIXの止血機能の特徴を追求している。またトロンビン生成試験をベースに試薬や反応時間を変化させることによる変化も評価し、包括的な止血能に対する影響も評価している。 ②該当患者を対象とした関節エコーによる関節症評価:血友病性関節症の評価には従来レントゲンが用いられてきたが、近年は関節エコーやMRIによる評価の有用性が報告されるようになってきた。そのため、本研究では研究分担者により、血友病患者を対象に関節エコーを実施。様々な病的背景を持つ患者に対して実施することにより、血友病性関節症で見られる所見を集積し、血液凝固学的データと併せて評価することにより、サイレントに進行する血友病性関節症の病態を追求している。 ③遺伝子組み換え血友病Aマウスを用いた微小関節内出血/関節症モデルによる病態解析:FVIIIが欠損する血友病Aモデルマウスを用いて、足関節に30G針で穿刺することにより、関節内出血を惹起する関節内出血モデルをセットアップし、動物モデルによる関節症の発症メカニズムの追求を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①患者血漿を用いた血液凝固アッセイによる止血機能解析:血友病患者を対象にOSAとCSAによる凝固因子活性の測定と遺伝子解析を実施。OSAとCSAの活性値に乖離が見られた症例に関しては、トロンビン生成試験を実施した。トロンビン生成試験では従来の組織因子を添加して反応を開始させるアッセイ系だけでなく、活性化血液凝固第XI因子添加により反応開始させるアッセイ系を構築した。この2つの方法でトロンビン産生までの開始時間や立ち上がりの傾向についての検討を行った。 ②該当患者を対象とした関節エコーによる関節症評価:まずは血友病性関節症に見られる所見を集積するため、様々な血友病重症度、出血頻度、関節症の程度をもつ患者さんに対して関節エコーを実施した。HEAD-USに基づいてスコアリング評価すると同時に、新たな所見発見や、傾向について検討している。エコー検査枠開設からの期間が間もないが、2023年3月31日までに、10症例の血友病A患者に対して、関節エコーを実施した。関節症の進行した症例では、特徴的な所見は、得られていない。一方、関節内出血を未発症の症例では関節軟骨の厚みが減少している所見が確認された。この所見は血友病性関節症の初期所見と考えられるが、この所見がどのような意味を持つのか、そして、どのような背景を持つ患者さんで発症してくるのかを今後追求していく。 ③遺伝子組み換え血友病Aマウスを用いた微小関節内出血/関節症モデルによる病態解析:関節穿刺による関節内出血モデルの構築は達成された。しかし、針の径をどれだけ細くしても関節内出血量が非常に多く、関節内微小出血モデルとはいいがたいものであった。またOSAとCSAで活性値の異なるFVIII製剤を投与して活性乖離を呈する血友病Aマウスモデルの作製を試みたが、製剤ごとの抗原量の差が大きく、均一性が取れないという問題が生じている。
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今後の研究の推進方策 |
マウスモデルによる血友病性関節症モデルは、実施した結果、関節包を大きく損傷させるその手法は、血友病患者に見られる自然出血による関節内出血とは大きく病態が異なると考えられ、そこから発症する関節症もヒトの血友病性関節症とは根本的に異なる病態であると考えられた。また、活性乖離を示すFVIIIの凝固学的解析についてはそのような性質を示すFVIII製剤があったため、それを使い解析を進める予定であったが、抗原量と活性値のバランスがヒトの天然FVIIIとは大きく異なり、ヒト症例で見られるFVIIIとは根本的に性質が異なるタンパクのようである。そのようなことから、ヒト検体を用いた検討に絞って推し進める。今までやってきた2つの活性測定、2つの方法によるトロンビン生成試験、遺伝子解析とともに、軌道に乗った関節エコーの実施を進め、血液凝固学的特徴と関節エコーで見られた所見についての関係性についての検討を推し進める。 研究対象となるOSAとCSAで活性乖離を示す症例はすでに10症例程度が集積されており、血液凝固学的特徴の検討には十分な症例数であるが、関節症との関連性については不足するかもしれない。これまでの関節エコーの結果からは関節症の進行した症例よりも、臨床的に関節の痛みなどが見られない症例の方が、関節エコーでしか同定することのできない所見が得られており、血友病性関節症の初期段階をとらえることが出来ている。そのため、関節に症状のない若年患者を中心に症例の集積を進めて解析を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究分担者によって行われる実験に遅れがあり、次年度の使用に回す。また、試薬の納入が遅れており、これも次年度使用金額に回る原因となった
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