B細胞リンパ腫株を用いて、EZH2阻害薬によって生じる遺伝子発現変化を網羅的に解析し、その生物学的意義について検討した。B細胞リンパ腫株を用いて、EZH2阻害薬によって生じる遺伝子発現変化をマイクロアレイ解析、RNAシークエンス、定量RT-PCR法を用いて絞り込み、全ての細胞株でCCL17の発現・分泌が上昇することが判明した。また、EZH2阻害薬はこれら以外にもNK細胞やT細胞の反応性に関わる特徴的な液性因子の一群の発現を誘導し、B細胞リンパ腫の腫瘍微小環境をある特定のパターンに変化させる作用を持つことが示された。ホジキンリンパ腫は免疫細胞の豊富な微小環境を持つ腫瘍であるが、B細胞リンパ腫におけるEZH2阻害薬処理により誘導される遺伝子群とホジキンリンパ腫の腫瘍細胞であるH/RS細胞で高発現が報告されている遺伝子群には有意な相関がみられることがGene set enrichment analysis (GSEA)により示された。 濾胞性リンパ腫とホジキンリンパ腫はともに胚中心B細胞が起源の腫瘍であると考えられているが、以上よりエピゲノム修飾の違いが異なるリンパ腫病型の形成の一端を担っている可能性を推測した。ホジキンリンパ腫でH3K27の脱メチル化を生じる要因として、ホジキンリンパ腫で知られるヒストン脱メチル化酵素KDM4Cの高発現と、EBウィルス感染によるLMP1発現の関与を推測し、濾胞性リンパ腫細胞株へのLMP1蛋白導入、さらにホジキンリンパ腫細胞株においてKDM4Cの発現抑制により変化する遺伝子群に関し、濾胞性リンパ腫におけるEZH2処理によって変動する遺伝子群との比較を行ったところ、これらの間で重複する遺伝子の一群が存在することを見出した。
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