研究課題
7q欠失MDSの責任遺伝子のひとつであるSamd9とSamd9L遺伝子(以降Samd9/9L)は、機能獲得型の変異により、非常に稀な幼児の7q欠失MDSが多発する「Samd9/9L症候群」を引き起こすことが知られている。しかし、Samd9/9Lの変異体の詳細な解析はなされていないことから、本研究では樹立したSamd9/9L症候群モデルマウス(Samd9L D764N変異マウス)とSamd9L欠損マウスを用いて、造血細胞におけるSamd9L変異体の機能を明らかにすることを目的に検討を行った。Samd9L欠損マウスは、生後1年半以降の高齢になると約半数がMDSを発症するが、それまでは貧血や骨髄細胞の異形成所見は認められない。一方でSamd9L変異マウスは、生後すぐに発育不全を呈し、生後半年前後で重度の貧血と造血不全、腎臓を中心とした臓器不全により、全例死亡する。Samd9L欠損マウスの造血幹細胞は、増殖能や骨髄再構築能の亢進が認められるのに対して、Samd9L変異マウスの造血幹細胞は、特にリンパ球と赤芽球への分化が強く抑制され、増殖能と骨髄再構築能が低下していた。そこで、造血幹細胞のBrdU染色による細胞周期の検証を行ったところ、Samd9L欠損細胞は、正常細胞と比較してBrdU陽性細胞の割合が低下しているのに対して、Samd9L変異細胞は優位に増加しており、細胞周期が亢進している細胞が増加していることが分かった。また、それぞれのマウスの造血幹細胞を単離してRNA-seq解析を行ったところ、Samd9L変異細胞ではTGF-betaシグナルの亢進とTGF-betaシグナル経路の混乱を示唆する結果を得た。
2: おおむね順調に進展している
順調に進行している。今年度は、マウス由来の造血幹細胞の特性の精査と、前年度に樹立したiLS細胞を用いたSamd9L変異体の機能解析を計画通り実施した。
来年度は、Samd9L変異マウスとSamd9L欠損マウスの造血幹細胞の特性についての解析を引き続き実施する。加えて、骨髄微小環境の差違について検討するため、変異マウスと欠損マウスをレシピエントとした骨髄移植実験を行い、ドナー由来造血細胞の生着や分化能について検討する。また、Samd9/9Lはサイトカイン代謝に関与する機能を有することから、樹立したiLS細胞を用いて各種サイトカインの取り込みと代謝能について検証し、未分化な造血細胞におけるSamd9L変異体のサイトカイン代謝機能を確認する。さらに、サイトカインを発現する巨核球やCAR細胞などの機能について各モデルマウス間で精査し、造血幹細胞をとりまく環境についても検証する。また、今年度に実施したトランスクリプトーム解析から得られたいくつかの候補遺伝子について検証を進め、Samd9L変異マウスの造血幹細胞でTGF-betaシグナル経路の混乱が生じるメカニズムを明らかにする。それに加えて、Samd9とSamd9Lの変異体機能が個体レベルで検証できる、新しいヒト様マウスモデルを作製するため、ベクター作製とES細胞の樹立に着手する。
前年度に生じた繰越額に加えて、予定していた国内学会・国際学会がオンライン開催となり、交通費が発生しなかったことによる。繰り越した助成金は来年度の実験に使用する。
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