7q欠失MDSの責任遺伝子のひとつであるSAMD9とその相同遺伝子SAMD9L(以下、SAMD9/9L)は、機能獲得型の変異により造血不全を主徴とする「SAMD9/9L症候群」を引き起こす。疾患の発症機序を明らかにするため、樹立したSamd9L遺伝子欠損マウスと、SAMD9/9L症候群のモデルマウスであるSamd9L D764N変異マウスの造血幹細胞の機能を検証した。その結果、Samd9L変異マウス由来のLT-LSK細胞は、正常マウス・Samd9L欠損マウス由来の細胞と比較してBrdU陽性細胞の割合が優位に増加しており、細胞周期の亢進が認められた。続いて、マウスから単離したLT-LSK細胞を低酸素・低サイトカインの未分化能を維持しやすい培養条件で短期培養を行ったところ、Samd9L変異細胞はCD34-の未分化な細胞が著しく減少し、またEdU陽性細胞の増加が見られたことから、Samd9L変異体を発現する造血幹細胞は分化しやすい傾向にあることが判明した。そこで、LT-LSK細胞のRNA-seq解析を行ったところ、Samd9L変異細胞ではp57の発現低下やCdk6の発現上昇に加えて、TGβシグナルの下流因子であるHoxB5やNeo1などの、幹細胞性の維持因子の著減が認められた。さらに、マウスの造血前駆細胞から樹立したiLS細胞において、Samd9L変異iLS細胞でTGFβの濃度依存的な感受性の異常が認められた。TGFβは造血幹細胞の維持に必須の因子であることから、造血幹細胞におけるTGFβの感受性異常が細胞周期の亢進や増殖能の低下を引き起こし、造血不全の原因となっていると推測された。
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