研究課題/領域番号 |
21K08397
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
森嶋 達也 熊本大学, 国際先端医学研究機構, 特任講師 (40421375)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 急性骨髄性白血病 / IDH遺伝子変異 / 薬剤耐性 / 脂肪酸代謝 / ドラッグ・リポジショニング / 抗炎症薬 |
研究実績の概要 |
Isocitrate dehydrogenase (IDH)遺伝子変異をもつ白血病は変異型IDHにより産生される代謝産物(オンコメタボライト)が腫瘍化に関わっているとされ、オンコメタボライト産生を抑える薬剤が既に臨床応用されているが、不応例や耐性獲得例も報告されている。我々はこれまでの研究によりIDH変異白血病細胞ではオンコメタボライト非依存性の脂肪酸代謝異常による細胞死耐性が認められることを明らかにした。本研究ではこの薬剤耐性メカニズムの全容を明らかにし、脂肪酸代謝を標的とする抗炎症薬の併用によるIDH変異腫瘍細胞根絶の可能性をマウスモデルや臨床サンプルを用いて検証する。 IDH変異とアラキドン酸代謝を結ぶ分子メカニズムに関しては、IDH2変異白血病細胞ではリン脂質代謝酵素であるホスホリパーゼC (PLC)、特にPLCB1, PLCG1の発現が低下していることを明らかにした。 マウスモデルに関しては、IDH2変異ヒトAML細胞株TF-1の免疫不全マウス(MSTRGマウス)への移植実験を行った。通常の静脈注射による移植では生着が認められなかったため、大腿骨内へ細胞株を直接移植する方法をとることで生着を得た。同一マウスでの骨髄内白血病細胞キメリズムの経時的解析を行うため、全身麻酔下での大腿骨からの骨髄液吸引法やLuciferase遺伝子を導入した細胞移植マウスを用いたin vivo ライブイメージングを試みたが、いずれも安定した結果が得られなかった。そのため治療終了後にマウスを安楽死させて取り出した骨髄を解析する従来の方法を用いて治療効果を判定し、抗炎症薬の併用による治療の有効性を確認した。AML患者由来骨髄細胞を用いた薬剤治療実験は複数の患者細胞の移植を試みたがいずれもマウスへの生着を得ることができなかった。 以上の結果をまとめ現在論文投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度まではin vivo薬剤治療実験の最適化に時間を要していた。今年度は確立を試みた白血病キメリズムの経時的解析は実現できなかったが、従来の方法を用いることにより当初の目的である抗炎症薬の併用による治療の有効性を確認するデータを得ることができた。これにより既に論文投稿まで進んでおり、来年度中の論文発表の見通しが立ったため。
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今後の研究の推進方策 |
まずは論文アクセプトを目指し、さらに本研究を発展させるため、以下の実験を進めていく。 本研究ではIDH変異白血病細胞におけるオンコメタボライト非依存性の脂肪酸代謝異常による細胞死耐性のメカニズムを明らかにしたが、ほとんどのデータは単一の細胞株を用いて得られたものである。この結果を普遍化するために、別の細胞株に変異型IDHを強制発現させるなどした複数の細胞株を用いて検証する。さらにAML患者サンプルの遺伝子発現データ等の解析も加えていく。 IDH変異とPLC発現低下を結ぶ分子メカニズムに関しては、IDH変異により誘導されるDNAメチル化などのエピジェネティックな変化に注目し、これによるPLC遺伝子発現の変化について検討を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は論文投稿準備およびその審査待ちの期間があったため、消耗品の使用が少なかったため。来年度は論文アクセプトに向けて、研究計画に記入した実験を進めるために経費を使用していく。
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