研究課題
鉄過剰症は過剰鉄による肝臓、心臓、内分泌腺などの臓器障害を主体とする病態であるが、最近の臨床報告から過剰鉄が骨髄造血障害を引き起こすリスク、および骨髄性腫瘍を誘導するリスクが疑われるようになった。本研究ではこれらの点を明らかにするために実験を行った。本年度は主に過剰鉄による造血の変化について解析を行った。マウスに鉄を投与し約半年間にわたって末梢血および骨髄細胞を解析したところ、鉄投与マウス(200mg)では投与1ヶ月日程度は白血球・好中球の増加、赤血球の低下、血小板数の増加が認められるが、3ヶ月以上経過すると、赤血球数に明確な差は無くなり、白血球・好中球の増加は持続、血小板数は減少傾向となることが判明した。この現象は過剰鉄による炎症が原因である可能性があるため、現在炎症励起物質であるLPSをコントロールとした実験を開始しており、また炎症の影響を軽減させるため減量鉄量(40mg)を投与したマウスでの研究を進めている。また、本年度は骨髄未分化細胞のコロニーアッセイを継続した。その結果、鉄投与マウスでは骨髄中のnmEM(多分化クローン)の減少傾向が認められており、過剰鉄による造血抑制を反映している可能性が示唆された。LPSおよび低用量鉄投与マウスにおいても同様の実験を継続する計画である。その他、本年度は鉄による造腫瘍性を検討するため、TP53ノックアウトマウスへの鉄投与を継続した。TP53ノックアウトマウスでは明らかに鉄投与によって早期に死亡する傾向が認められたが、死因として原因を明らかにできないものがあり、腫瘍発生の有無を含め過剰鉄の病理作用について検討を継続している。
3: やや遅れている
本研究の目的である過剰鉄による骨髄造血への影響、および過剰鉄が腫瘍発生に与える影響について研究を進めることができた。しかし、コロナ感染の影響による研究体制の変化などがあり、当初の予定よりは進行が遅れている。本研究では鉄を投与した後、数ヶ月から半年間経過観察を行う比較的長期間の研究が多いため、特に影響が出やすかったものと考えている。このため、これらの解析については、投与時期の検討など研究中に様々な工夫をして影響をできる限り低減できるよう努めた。
やや研究の進行は遅れ気味であるが、来年度以降は効率よく研究が進められるよう工夫していく計画である。今年度の研究で鉄過剰による影響は炎症を介している可能性が示唆されたため、来年度以降は低用量鉄およびLPS投与をコントロールとして骨髄造血能の変化を確認する計画である。また、骨髄造血についてはsingle cell sortingを行った細胞による未分化造血細胞のコロニーアッセイ研究および移植実験による造血再構築能の研究を行う。腫瘍発生については個体数を増やして解析する必要があるため、鉄投与および腫瘍発生に関する観察を継続する。
本年度内に全額を使用予定であったが16,282円が残り、本金額は物品購入希望価格に足りない。このため本金額は次年度使用とし、次年度の助成金と合わせて物品購入に使用する計画である。
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Future Oncol.
巻: 18 ページ: 93-104
10.2217/fon-2021-0988
Internal Medicine
巻: - ページ: -
10.2169/internalmedicine.8391-21