研究課題/領域番号 |
21K08404
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
服部 浩一 順天堂大学, 大学院医学研究科, 特任先任准教授 (10360116)
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研究分担者 |
高橋 聡 東京大学, 医科学研究所, 特任教授 (60226834)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 血液内科学 / 免疫制御学 / 血栓止血学 / 血液免疫学 / 血液腫瘍学 |
研究実績の概要 |
研究者らは、神戸学院大学薬学部との共同研究で、従来、止血剤として開発されているプラスミンの活性中心に作用する新しいプラスミン阻害剤、抗線溶剤YO-2をドラッグリポジショニングの形で転用し、敗血症、移植片対宿主病(GVHD)、マクロファージ活性化症候群(血球貪食症候群)等のサイトカインストーム症候群の疾患モデルとその対照群に投与したところ、疾患モデル群の生存率を有意に改善することに成功した。新型コロナウィルス(SARS-Co-V2)感染症(COVID-19)の病態、特に重症化した病態は、サイトカインストーム症候群と理解されている。研究者らは、海外の研究協力者らと共に精査した結果、欧米や中東、そして日本のCOVID-19患者から採取した血液中で、炎症性サイトカイン系の濃度増加が認められた。また、欧米や中東では、有意に線溶系の賦活化因子でもある組織型プラスミノーゲンアクチベータ(tPA)、そしてプラスミン生成を示すプラスミンα2アンチプラスミン複合体(PAP)濃度の増加が認められたことから、血管内皮障害・機能異常の際に血管内皮に発現が増加するアンジオクライン因子の活性、産生がCOVID-19の重症化を制御しているとの研究者らの仮説を裏付ける結果が得られた。さらに、SARS-Co-V2の細胞内侵入時にスパイク分解など、感染上重要な役割を担うtransmembrane protease, serine 2 (TMPRSS2)が、多くの線溶系因子と同様、セリンプロテアーゼ群に属することから、前述の抗線溶剤の活性への影響をin vitroで確認したところ、有意に阻害されることを確認した。このため、研究者らは、現在、米国ワシントン大学セントルイス校との共同研究により、SARS-Co-V2の感染モデル、COVID-19の疾患モデルを使用し、抗線溶剤の有効性を確認中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究者らは、F1ハイブリッドの移植片対宿主病(GVHD)の疾患モデルにおいて、その病態形成に重要と考えられるCD40をsiRNAとβグルカンとの複合体によってノックダウンし、CD40/CD40-ligandシグナルを阻害することにより、サイトカインストームの発生とGVHDの標的臓器病変の形成を抑制し、生存率を改善することに成功した。CD40-ligandは、tumor necrosis factor-α(TNF-α)やFas-ligandと同様、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)によって細胞外ドメイン分泌されるII型膜貫通の (TNF)スーパーファミリーに属する因子であり、T細胞表面に発現し、CD40との特異的結合を通じ、T細胞からB細胞の活性化と増殖シグナルを伝達し、免疫病態を制御している。またCD40は血管内皮細胞に発現しているアンジオクライン因子であることも判明しており、CD40-ligandとの結合により内皮が活性化され、さらなるアンジオクライン因子の産生と分泌のトリガーとなって、血液凝固・線維素溶解系(線溶系)の亢進にも関与することが解っている。COVID-19の新規治療法としても、抗CD40抗体の臨床試験が始まっている。研究者らは、siRNAにより内皮に発現したCD40を直接的に阻害し、血管内皮機能を制御することにより、GVHD等のサイトカインストーム症候群の病勢を抑制することが可能であること、またSARS-Co-V2の感染に伴う血管内皮障害・機能異常によって誘導されるCD40に代表されるアンジオクライン因子の産生と分泌が、COVID-19の重症化、サイトカインストーム症候群の発生に関与していること等を提示した。本研究の仮説の検証に、この論文は大いに寄与していること、論文発表が継続されていることから、本研究の進捗状況は、至極順調であると判断された。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、現在、研究者らが現有する他のサイトカイン症候群の疾患モデルに加え、米国ワシントン大学セントルイス校のDiamond S Michael教授らの作製したCOVID-19モデルを使用し、神戸学院大学と開発中の新規抗線溶薬の投与、間葉系幹細胞移植群を作製し、これらの有効性を精査中である。経時的な生存率、顕性症状を記録と、末梢血を含む各種臓器・組織を採取を採取し、病理切片を作製、アンジオクライン因子による免疫特殊染色、in situ hybridizationによる、ここに形成される血管ニッチの細胞・組織構成を解析している。これらよりソーティングによって採取した血管内皮細胞の包括的遺伝子発現を含む性状解析も進めている。加えて令和4年の4月頃からを予定していたヒトとマウスの凍結血漿中の炎症性サイトカイン、凝固・線溶系因子を含むアンジオクライン因子濃度、活性測定については既に開始した。これらと並行して、研究分担者らと共同で、令和3年中に始めていたCOVID-19、GVHD等のサイトカインストーム症候群の臨床検体の採取、重症度・合併症・各種薬剤投与を含む治療歴等の患者情報の記録は、症例数を増やすためにさらに進めることとする。そして血中の凝固・線溶系因子等を含むアンジオクライン因子・炎症性サイトカイン濃度・病理組織等を利用した内皮性状データを集積し、令和5年の4月頃から患者と疾患モデルとのデータ照合、また海外の研究協力者を通じて、国外、主に日独の患者情報、データ比較を進め、論文投稿準備を並行して進める。現在、既に先行論文を投稿中であり、そのレビューを参考に実験計画に不備があれば修正して行くこととする。また疾患モデルの薬剤有効性を吟味し、最終的にサイトカインストーム発生の予見、その早期診断に有用なアンジオクライン因子、血管内皮発現分子を絞り込んでいく方針に変更はない。
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次年度使用額が生じた理由 |
翌年度分として請求した助成金はございません。 経費を執行した際、1円が残りました。1円物品の購入予定はなかったため、残額といたしました。 次年度、消耗品の購入費の一部として、使用予定です。
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