造血細胞移植は白血病などの血液疾患の根治を目的として行われるが、合併症として急性腎障害(AKI)がしばしば発生する。薬剤や感染症などの様々な要因が想定されてるが、詳細には解明されていない。造血細胞移植後の合併症である急性移植片対宿主病(aGVHD)は皮膚、肝臓、消化管が主な標的と考えられているが、腎臓はaGVHDの標的臓器として認識されていない。本研究では、ドナーの免疫細胞(特にTリンパ球)がレシピエントを攻撃する疾患であるaGVHDとAKIの関連に注目した。その結果我々は、同種ドナーから骨髄移植を受けたマウスでは、腎臓にドナー由来のCD4陽性およびCD8陽性 Tリンパ球が多く浸潤しており、これらのTリンパ球にはCD69、CD25などの活性化マーカーや、PD-1、Tim-3などの疲弊マーカーが発現していることを見出した。また、腎臓に浸潤したドナーTリンパ球は腫瘍壊死因子(TNF)-α、インターフェロン(IFN)-γ、グランザイムB、パーフォリンなどのサイトカインを産生する能力を有していることが分かった。同種移植レシピエントの腎臓では、AKIのマーカーである好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリン(NGAL)と皮膚GVHDのマーカーであるエラフィン蛋白の発現が増加していた。さらに、腎由来培養細胞をターゲットとして細胞傷害性Tリンパ球(CTL)アッセイを行った。T細胞を同種または同系の抗原提示細胞で刺激して活性化させ、腎血管内皮細胞または近位尿細管上皮細胞と共培養した。同種反応性T細胞との共培養によって、それらの腎細胞の細胞死が誘導されていることも確認した。これらの結果より、同種ドナー由来のTリンパ球がレシピエントの腎臓を傷害していること、すなわちaGVHDが造血細胞移植後のAKIに寄与していることが考えられた。
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