令和5年度は、昨年度までに解析してきた、研究代表者の有する誘導型白血病発症モデルマウスを活用した、種々の造血前駆細胞や造血幹細胞集団において異なった白血病発症様式で重要な役割を果たすことが判明した遺伝子Bahcc1に関して、ヒト白血病と関連する詳細な分子細胞生物学的な解析を進めた。まず、先行研究の内容も踏まえ、従来、ほとんど検討されていなかった、本研究の対象の遺伝子変異と同じ、あるいは同等の遺伝子変異を有する染色体11q23転座型白血病細胞株について、レトロウイルスを用いた、shRNA発現カセットの導入による遺伝子のノックダウン実験を行った。実験の条件検討を各種行い、およそ20-30%程度まで、発現を抑制することが可能となり、その条件下で、細胞増殖能を検討したところ、ノックダウン群で、有意に増殖が抑制されており、昨年度までにマウスモデル系で得られた結果と、合致するものであった。また、こうした細胞株におけるプロモーター領域の解析について、データベース解析を行ってみたところ、同様に、昨年度までにマウスモデル系で得られていた結果と同様に、MLL融合タンパク質がプロモーター領域に局在することを示唆する結果が得られた。GSEA法を用いた遺伝子発現に関するデータベース解析では、この遺伝子の発現が高いほうが、重要な下流の白血病関連遺伝子c-Mycと関連する白血病遺伝子群の発現が高い傾向にあることも判明した。こうした結果から、さらに、ヒトの白血病の症例のデータベースの解析も行い、この遺伝子の発現と、小児のAMLの予後に一定の相関関係があり、白血病における重要な役割を示唆する結果が得られた。以上の結果をまとめ、Blood advances誌に投稿し、受理された。
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