研究課題
高度の血小板減少症では重篤な出血の予防や治療のために献血血小板の輸血が行われるが、血小板のHLAクラスI(HLA-I)に対する同種抗体によって輸血患者の約5%では拒絶されてしまう。この様な血小板輸血不応症に対するユニバーサルな対策法として、申請者らは臨床に必要なスケールでの製造が可能なiPS細胞由来血小板(iPS血小板)システムを用いてHLA-I欠失iPS血小板を製造している。免疫原性の検証を行ったところ、他のHLA-I欠失細胞と異なり血小板はNK細胞に攻撃されないことを見出したが、その機序は不明であった。そこで本研究では、HLA-I欠失iPS血小板を用いてプロテオミクス解析および細胞動態解析を行ったところ、血小板の免疫逃避性に寄与しうる、複数の寄与候補分子・経路を同定できた。なかでも、TGFβは、その性質から遺伝子を欠失させるのは正常血小板生成の観点から困難だが、阻害剤等と用いたin vitro共培養の実験から、重要と示唆されるデータが得られた。一方、ビボでの免疫原性を確実に検証可能とすべくNK細胞再構成ヒト化マウスの構築を進め、NSG-SGM3系統のマウスを用いることにより、十分にヒトNK細胞が再構成された状態を作り出すことに成功した。このヒト化マウスでは、HLA-I完全欠損血液有核細胞は拒絶されるが、HLA-Cを残すと拒絶されなかった。一方で血小板はHLAクラスI全欠損でも拒絶されない。本研究の成果は、血液免疫学、特に多様な免疫病態に関与する血小板の作用メカニズムに新知見をもたらし、新規治療戦略に結びつくことも期待される。また構築したNK細胞再構成ヒト化マウスは再生医療の実用化にあたっての非臨床試験に有用となる。
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Biochemical and Biophysical Research Communications
巻: 662 ページ: 76~83
10.1016/j.bbrc.2023.04.067