研究課題/領域番号 |
21K08415
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
横田 貴史 大阪大学, 大学院医学系研究科, 招へい教授 (60403200)
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研究分担者 |
上田 智朗 大阪大学, 大学院医学系研究科, 助教 (60747517)
新開 泰宏 大阪大学, 大学院医学系研究科, 招へい教員 (70791614)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 白血病幹細胞 / 急性骨髄性白血病 / 可塑性 / サイトカインシグナル |
研究実績の概要 |
申請者らは、独自の研究で見出した造血幹細胞表面抗原Endothelial cell-selective adhesion molecule (ESAM)の発現を指標として、ヒト急性白血病の腫瘍細胞、特に急性骨髄性白血病の腫瘍幹細胞の解析を行った。腫瘍幹細胞が含まれるとされているCD34陽性CD38陰性分画において、ESAMの発現様式は症例ごとに大きく異なり、また同一症例においてもESAMの発現強度は不均一であった。CD34陽性CD38陰性細胞を、ESAMの発現量に基づいてESAM陽性と陰性に分離して培養すると、どちらの細胞からもESAMの発現が不均一な白血病細胞集団が再構成される結果を得た。このことは急性骨髄性白血病の腫瘍幹細胞が均一で静止した集団ではなく、不均一で可塑性を持つ集団であることを示していた。さらにその不均一性・可塑性を誘導する分子機序として、環境側のみならず自己分泌するサイトカインTGFbからのシグナルが関与していることを見出した。そこでTGFb受容体に対する特異的阻害剤を用いてTGFbシグナルを抑止したところ、腫瘍幹細胞の可塑性が抑制され、比較的均一な集団が誘導された。興味深いことに、この均一化された腫瘍細胞集団は抗がん剤に対して脆弱であるのみならず、TGFbシグナルの抑制だけで細胞死が誘導される症例も見出された。この結果は、腫瘍幹細胞のサイトカインシグナル系を標的とした新たな治療選楽の開発に寄与するものと考えている。さらに腫瘍幹細胞の表面抗原の可塑性の解析から、細胞の静止・増殖状態を反映する新たな分子も同定できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の計画として、ヒト急性骨髄性白血病の腫瘍幹細胞において、ESAMの発現レベルを指標にして、細胞学的なゆらぎを誘導する分子メカニズムを明らかにすることを目標に解析を行った。生体への投与で白血病の発症を継代できることから腫瘍幹細胞とみなすことが可能な細胞を、無血清培地で単一細胞培養を行なっても、表面抗原のみならず遺伝子全体の発現様式に変動を示したことから、白血病幹細胞における変動・ゆらぎは、環境側からの影響で生じる受動的なものだけではなく、白血病幹細胞自身に本質的に備わった自律的な機序の存在が推測された。そのメカニズムとしてTGFbシグナルの関与を明らかにし、かつその阻害剤の抗白血病作用も確認できている。さらには、ESAM以外にもヒト骨髄性白血病の腫瘍幹細胞に関連した分子が同定できている。この状況から、本研究はおおむね当初の計画通りに研究が進んでいると考える。
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今後の研究の推進方策 |
進捗状況で示した実験結果は、白血病細胞が自分泌する分子によって自らのゆらぎを誘導し、ひいては集団の多様性を構築することを示唆している。この知見に基づき、サイトカイン受容体阻害薬によりシグナルを阻害することで白血病幹細胞の変動・ゆらぎを停止させ、抗癌剤への感受性や発現する表面抗原の解析を行う計画である。また、今回の研究を通じて、ヒト急性骨髄性白血病の腫瘍幹細胞の指標となる細胞表面分子を、ESAM以外にも見出すことができている。これらの細胞表面分子は、環境側との相互作用を通じて、腫瘍幹細胞に何らかの恩恵を与えている可能性がある。このメカニズムの解析も白血病治療への手かがりとなる可能性があるため、次年度の解析対象に加える方針である。
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