研究課題
がんのドライバー遺伝子変異は、どの細胞でも常に発がん性を有するのではなく、細胞起源などに依存した形質転換受容細胞でのみ“がん”を起こす。MLL融合遺伝子による急性白血病は、成人では、抗がん剤による二次性白血病が主で、De novo白血病は比較的まれであるのに対して、乳幼児では、急性白血病の50%以上と高頻度に認める。本研究では、この年齢・状況依存的なMLL-AF9白血病発症の分子基盤を、統合的オミックス解析によって検証する。昨年度の研究成果から、加齢で白血病発症が抑制されたことから、骨髄移植ストレス(細胞分裂・炎症ストレス)で誘導される幹細胞内因性因子が白血病発症を抑制するか検証する。骨髄細胞を1回または3回連続移植を行ってから、変異体を発現誘導したマウスで白血病発症を比較した。MLL-AF9-KIマウスに加えて、MLL白血病で高頻度にある付加的変異のNRas活性化変異体(conditional KI)を導入したMLL-AF9; NRasG12Dも併せて用意した(右図参照)。その結果。1回移植に比較して3回移植したマウスでは白血病発症が有意に遅延・抑制された。従って、造血幹細胞に対する移植によるストレスが、MLL-AF9白血病発症を障害した。それぞれMLL-AF9発現を誘導した後に、白血病発症前の造血幹細胞を採取して遺伝子発現解析を実施した。その結果、MLL-AF9標的遺伝子に加えて、MLL融合蛋白と結合し、その白血病病態進展に不可欠なヒストン修飾酵素であるDOT1Lの標的遺伝子の発現レベルが、1回移植の幹細胞に比較して、3回移植後にMLL-AF9を誘導した幹細胞では有意に抑制されていることが分かった。現在エピゲノムの変化やMLLのゲノムへの結合能の変化が胎児・成体で変わっているかを調べるため、ChIP-seqのサンプルを回収し解析する予定である。
2: おおむね順調に進展している
マウスモデルの表現型解析は概ね仮説通りになっており、計画通りに進行している。エピゲノム解析用のサンプルも回収が成功している。
昨年度から引き続き行っていた表現系の解析はほぼ終了しており、今後はエピゲノムとトランスクリプトーム解析によって、MLLの胎児期に発症能が高くなるメカニズムの解明と新規治療標的の探索を行っていきたい。
機器トラブルによって、3月の実験の進捗に遅れが生じたため、一部研究を次年度に持ち越した。機器トラブルが解消されたため、必要な試薬を購入して実験を進める。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
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