研究実績の概要 |
電解質・体液の恒常性維持は生命維持において不可欠であり、中でもナトリウム(Na)代謝は、脳・心血管・腎疾患など様々な疾患に直結するため、極めて重要である。生体内のNa調節は、これまで腎臓のみで行われていると考えられてきたが、近年、Naが皮膚、肝臓、筋肉など多臓器と連携して制御されていることが明らかとなり、Na代謝異常は様々な疾患をもたらすことが判明した。 全身性強皮症は、自己免疫現象を背景に、皮膚や肺など内臓諸臓器の線維化が進行する膠原病であるが、未だ病態の解明が不十分で、有効な治療法の乏しい難治性疾患である。食塩の過剰摂取による皮膚を代表とする組織局所へのNa蓄積は、p38/MAPキナーゼ経路を介する病原性Th17細胞へのT細胞の分極による自己免疫疾患増加を導くことが示されており、本研究では、「皮膚に蓄積するNaが、強皮症を進展・増悪させるメカニズムを解明し、この調整機構をターゲットとした新規治療法の開発を目指す」ことを目的として、①組織Na量を評価できるツールとして開発されたNa-MRIを「日本に初導入」し、②強皮症モデルマウスを用いた皮膚のNaに注目した実験を行った。①に関しては、NaCl入りのファントムを使用してテストスキャンを繰り返し、健常人の左下腿でNa-MRIの撮影に成功した。この撮影においては、濃度の異なるNaCl溶液(10, 20, 30, and 40 mmol/L)を満たしたキャリブレーションチューブを同時に撮影することで、組織Na量の定量を行うことができた。②においては、ブレオマイシン誘発強皮症モデルマウスで、線維化した皮膚でNa量が増加していた。一方で、水分量には差が見られず、Na蓄積が皮膚の線維化を悪化させている可能性が示唆された。
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