前年度までの結果から、プロトン・カチオン交換輸送体として作用して酸性オルガネラの内腔を中和する、キャリアイオノフォアの一つであるモネンシンが、コラーゲン誘導性の関節炎に対して高い抗炎症作用を発揮することが明らかとなった。モネンシンは、JAK3によるシグナル伝達を選択的に阻害することで、免疫反応を抑制していると考えられる。そこで、本年度はコラーゲン誘導性関節炎と同様に、自己炎症性疾患のモデルマウスとして広く用いられているデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘導性大腸炎に対してモネンシンが及ぼす影響について確認した。その結果、モネンシン投与はコラーゲン誘導性関節炎とは対照的にDSSによる大腸の炎症を有意に亢進させた。コラーゲン誘導性関節炎マウスにおいて、モネンシンはTh17細胞を選択的に抑制した。同様に、DSS誘導性大腸炎マウスにおいても、モネンシンはTh17細胞を抑制することが確認された。他方、DSS誘導性大腸炎マウスにおいて、IL-17の抑制や欠損が大腸炎を亢進することが明らかとなっている。これらを勘案すると、モネンシンはDSS大腸炎マウスのTh17細胞を抑制し、IL-17の産生を阻害することで大腸炎を亢進させることが示唆された。コラーゲン誘導性関節炎とDSS誘導性大腸炎に対して、モネンシンはそれぞれ炎症の抑制と亢進という、全く正反対な作用をもたらした。一方で、モネンシンは両方の自己炎症モデルマウスにおいてTh17細胞を選択的に抑制した。これら結果から、モネンシンによるJAK3の選択的抑制は、in vivoにおいてTh17細胞を選択的に抑制し、炎症の種類によっては抑制・亢進の両方を引き起こす可能性があることが示唆された。
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