研究課題/領域番号 |
21K08497
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
石井 良和 東邦大学, 医学部, 教授 (90246695)
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研究分担者 |
舘田 一博 東邦大学, 医学部, 教授 (20236558)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 病原体核酸検査 / 精度管理 / レンチウイルス / SARS-CoV-2 / RT-qPCR |
研究実績の概要 |
PCR検査に代表される病原体核酸検査において、その精度管理は重要な課題である。検査前プロセスから検査後プロセスまでの全工程を精度管理するには、標的核酸が対象病原体と同等の膜などに封入された状態のフルプロセスコントロール試料が必要である。本研究では、severe acute respiratory syndrome coronavirus 2 (SARS-CoV-2) の核酸検査をモデルとして、任意のRNA塩基配列をゲノムにもつウイルスパーティクルを作製できる市販の組換えレンチウイルス作成キット (Lentiviral High Titer Packaging Mix with pLVSINシリーズ, タカラバイオ) を用いたフルプロセスコントロール試料を検証する。この方法は、新たに流行しうる病原体を検出する核酸検査の、迅速なフルプロセスコントロール試料作製への応用が期待される。 SARS-CoV-2の核酸検査 (体外診断用医薬品) が標的とするOrf1b, S, N, およびE遺伝子の一部を直列につなぎ合わせた塩基配列を、人工遺伝子合成サービスに委託して入手した。このDNA断片をレンチウイルスベクタープラスミド pLVSINに挿入し、Lentiviral High Titer Packaging MixとともにLenti-X 293T細胞にコトランスフェクションすることにより、任意の配列をRNAゲノムに有する組換えレンチウイルスを取得した。The National Institute for Biological Standards and Control (NIBSC) から入手した国際標準品によって作成した検量線を用いて、本ウイルス試料に国際単位 (IU/mL) を付した。外部施設への配布時の輸送に耐える保存条件および安定性を確認した後、本ウイルス試料を31施設に配布し、SARS-CoV-2核酸検査の外部精度管理調査を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SARS-CoV-2核酸検査をモデルとして、本邦で使用されている体外診断用医薬品が標的とする配列をRNAゲノムに有する組換えレンチウイルス溶液を取得した。この組換えレンチウイルス溶液をSARS-CoV-2核酸検査の外部精度管理調査における配布試料とするため、原液を103および106倍希釈したウイルス溶液に国際単位を付したところ、それぞれ約0.12 log IU/mLおよび約0.00014 log IU/mLだった。試料保管および配布時の安定性を確認するため、ウイルス溶液の凍結融解および融解後の4℃および25℃による保管によるreverse transcription-quantitative PCR (RT-qPCR) の定量値の変動を確認した。その結果、凍結融解はRT-qPCRの定量値にほとんど影響せず、4℃で7日間は安定だったが、25℃では定量値が低下した。これらの結果より、当該2濃度の本ウイルス溶液は冷蔵輸送であれば外部精度管理調査に使用できると判断した。 次に、31施設に対して上述の高濃度および低濃度の2濃度の本ウイルス溶液および検出限界未満試料 (組換えレンチウイルスを取得したときに使用した培養細胞の懸濁液) をヤマト運輸の冷蔵便にて送付し、各施設が日常的に使用するSARS-CoV-2核酸検査法による当該試料の測定結果を回収した。その結果、ある検査法を使用した施設を除き、定性判定は高濃度試料では良好に一致し、低濃度試料では一部の施設で一致しなかった。ターゲット値として設定したCt値に対して各施設から回答されたCt値の乖離した程度は、検査の機器および試薬の組合せによって異なったが、共通の組合せであっても施設間差が認められた。検体を分注してセットする全自動タイプの検査機器であってもCt値にばらつきを認めたことから、試薬のlot間差が大きい可能性がある。これらの結果は、定量的評価を行うための検査は国際標準品を用いた標準化が必要であり、精度管理はCt値ではなく国際単位によって実施されるべきであることを示している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で得られた成果は、将来の新興感染症に係る核酸検査の精度管理における有用なフルプロセスコントロール作製方法の知見として論文に纏める。また、本手法で作製したフルプロセスコントロールを用いて、さらに施設数を増やしてSARS-CoV-2核酸検査の外部精度管理調査を引き続き実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、精度管理参加希望施設の募集時期が遅れ、参加希望施設が予定を下回り、検査用試薬の購入が減ったことから助成金の未使用額が生じた。次年度は精度管理可能なキットを増やすためのSARS-CoV-2由来核酸の改良と参加施設募集期間を早めるため、今年度の未使用分と次年度分を合わせて、検査用試薬、培地などの消耗品購入および学会などの旅費・宿泊費に充てる。
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