研究実績の概要 |
ESBLやカルバペネマーゼを産生する薬剤耐性腸内細菌目細菌は、近年Escherichia coliの菌種を中心に病院内のみならず市中においても急増傾向にあり、その急増の原因はST131といわれる単一クローンの世界的パンデミックである。しかし、そのパンデミックの原因は明らかとなっていない。われわれは過去の研究において、ST131に特異的ないくつかのアミノ酸変異を伴うタンパク質を抽出した(Nakamura A, et al. Sci Rep 2019.、Nakamura A, et al. Diagn Microbiol Infect Dis 2015.)。そのなかに、バイオフィルム形成能への関与を示唆する現在のところ機能不明なタンパク質YahOおよび可溶性チトクロームb562、そして酸ストレスシャペロンHdeAがある。われわれはST131パンデミックの原因を解明するため、これらのタンパク質の機能およびそれにともなうアミノ酸変異の影響を明らかにする。今年度は上記ST131特有遺伝子をさまざまな培養条件下でmRNA発現量に変化がともなうか実験を実施し、またバイオフィルム形成試験や酸耐性試験を表現型でも実験した。しかしながら、これらの表現型試験において優位な結果は得られなかったため、GSTおよびHisタグ付き高発現ベクターを用いたプルダウンアッセイを実施し、タンパク質間相互作用解析を実施した。その結果、上記のST131特異的タンパク質アミノ酸変異のうち、YahO E34Aのみタンパク質間相互作用を示すHchAタンパク質を検出した。現在、さらに詳細な解析中である。加えて、全ゲノム解析および網羅的遺伝子発現確認のためのRNA-seq解析をパンデミッククレードC1-M27、非パンデミッククレードC1-nM27およびBの3株を対象に実施した。その結果、ST131パンデミッククレードC1-M27では低栄養培養条件下において、通常のエネルギー代謝経路であるTCAサイクルからグルオキシル酸サイクルを利用して代謝していることが示唆された。本知見についてさらに詳細な解析を実施中である。
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