研究課題/領域番号 |
21K08503
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研究機関 | 富山県衛生研究所 |
研究代表者 |
大石 和徳 富山県衛生研究所, その他部局等, 所長 (80160414)
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研究分担者 |
金谷 潤一 富山県衛生研究所, 細菌部, 主任研究員 (80463131)
磯部 順子 富山県衛生研究所, 細菌部, 上席専門員 (10421893)
安居 輝人 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所, 医薬基盤研究所 感染症制御プロジェクト, プロジェクトリーダー (60283074)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 肺炎球菌 / 血清型 / 侵襲性ポテンシャル / 菌細胞間移動 / トランスクリプトーム / 脳微小血管内皮細胞 |
研究実績の概要 |
1.In vitro 経細胞間移動(bacterial transcytosis; BT)アッセイ ヒト血管内皮細胞(HUEhT-2)、ヒト鼻腔上皮細胞(HNEpC)、脳微小血管内皮細胞(TY09細胞)を使用し、各上皮細胞をトランスウェルチャンバーのインサート(3μmポア)上で一晩培養し、上層に血清型の異なる肺炎球菌を接種し、300xg, 5分遠心後に、1時間静置し(上層にはgentamicin 20 μg/ml添加)、上層から下層に移動した菌数をカウントし、BT(%)を算定した。アッセイに使用する肺炎球菌株として、侵襲性肺炎球菌感染症の原因菌の中から、高侵襲性と想定された12F, 10A, 23A,低侵襲性と想定された3, 19Aの5つ血清型を選択した。複数回のアッセイ実施の結果、HUEhT-2> HNEpC> TY09の順にBT%が高かった。この結果から、細胞の種類、血清型によって、BT(%)が異なる可能性が示唆された。また、TY09ではBT(%)が最も低かった所見はBlood-brain CSF barrierの透過率が低いことを示唆している可能性が考えられた。また、血清型 3 のBT%は、他の血清型12F, 10A, 23A, 19Aと比較して低かった。
2.RNA seq(トランスクリプトーム)解析 ヒト血管内皮細胞(HUEhT-2)を肺炎球菌生菌で1時間共培養し、細胞を洗浄後にRNA seq解析を行った。RNA発現量変化のクラスタリング解析により、血清型3と23A間での細胞応答に差は認められなかった。さらに、パスウェイ解析では菌処理した細胞において、未処理細胞と比較して、アポトーシスを含め細胞死関連パスウェイや血管形成や血管新生関連パスウェイ、細胞構成タンパクに関わるパスウェイの変化が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ヒト血管内皮細胞(HUEhT-2)、ヒト鼻腔上皮細胞(HNEpC)、脳微小血管内皮細胞(TY09細胞)を使用して、in vitro経細胞間移動については評価可能となった。しかしながら、HUEhT-2では細胞がコンフルエントに増殖する状態でもトランスウェルチャンバーの上層から下層への色素の漏れが認められ、BTの評価には適さない可能性が考えられた。一方、TY09細胞では色素の漏れはないことから、Blood-brain CSF barrierを想定できる生体内バリアとして検討を進めることとした。今後、HNEpCについても色素の漏れを検討する。また、in vitroの細胞培養実験において菌の細胞内侵入が確認されため、TY09で経細胞間移動と細胞内侵入の関連性、それぞれの意義について基礎的検討が必要となっている。また、菌株の莢膜の厚さの決定は未だ実施できていないため、R4年度に実施する。このような状況から、研究進捗はやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
1.各種細胞について、肺炎球菌の細胞に対する接着、細胞内侵入を血清型別に評価する。Brissacらは、肺炎球菌の血清型を決定する莢膜ポリサッカライドは、細胞内で抗酸化物質として作用し、菌が細胞を通過するのを促進することを報告していることから、血清型による耐酸化能の違いを評価する。(Brissac et al. 2021. mBio. 12(5):e0251621.)。In vitroの血清型による経細胞間移動能と耐酸化能の評価から、侵襲性肺炎球菌感染症の発症機序を考察し、血清型による侵襲性の違いに関する理論構築を目指す。 2.脳微小血管内皮細胞(TY09細胞とヒト鼻腔上皮細胞(HNEpC細胞)について 髄膜炎発症リスクの高い血清型10A,23A、髄膜炎発症リスクの低い血清型3,19A, 22F等の菌株を用いて経細胞間移動能と耐酸化能を評価する。HNEpC細胞培養系においてチャンバー上層から下層への色素の漏れがないか否かを確認し、HNEpC細胞のin vitro培養系の適否を判断する。評価可能と判断したら、HNEpC細胞での経細胞間移動能と耐酸化能の評価を進める。また、ヒト血管内皮細胞(HUEhT-2)に代わるin vitro細胞培養系の評価が可能なヒト血管内皮細胞の検討を進める。さらに、今後、In vitro細胞培養系での経上皮電気抵抗(TEER)測定を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
分担担当であるトランスクリプトーム解析のデータ取得が年度を跨ったため。R4年度もトランスクリプトーム解析を行う予定であるが、R3年度データとR4年度データの統合解析が必要なため、年度間の連動性が存在する。従って、トランスクリプトームデータ取得の外注費執行がR3年度分の執行予定分を含み、R4年度で執行予定である。
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